ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

再雇用の拒否はできない?

事務所で定期購読をしている判例タイムズに,実務上参考になるなと感じた裁判例名古屋地裁 令和元年7月30日)がありました。
65歳で大学を定年した大学教授が,大学に対して,再雇用の拒否は無効であると主張して裁判を起こしたという事例です。


1 お互いの言い分は?

概要は以下のようなケースでした。

教授「65歳で定年となったが,68歳まで再雇用できると決まっているので再雇用して下さい。」

大学「再任用の関する規程では,懲戒処分を受けた者は再任用しないと定めている。あなたは,別の教授のハラスメント行為について秘密を外部に漏らすなど,処分の対象となる行動を取ったので,在任中に譴責処分となっている。だから,あなたの再任用はしない。」

教授「でも,それは学生を保護する必要があったし,緊急だったので仕方がなかった。譴責処分にしたこと自体おかしい」

大学「それ以外にも,あなたは懲戒処分の情報が漏洩しないようにすべきだったのに,別の教授が懲戒処分に至ったことを学内の会議や研究科委員会などで話したり,メール送信しているじゃないか。」
大学「他にもあるぞ。その懲戒案件を扱う会議の連絡をするとき,処分を検討する教授と婚姻関係にあった教授だけは,他の教員と異なる取扱をしたではないか。」「あなたを懲戒するときにも適正な手続を踏んでいるのだから,懲戒処分に問題はないぞ」

教授「色々と懲戒処分の小さな理由を並べているけれども,大した理由もなく譴責処分にするのは行き過ぎている。だから,譴責処分は無効だし,譴責処分は無効である以上,再任用を拒否できる理由もない。」


2 裁判所の判断は?

このような言い分と証拠を見聞きした裁判所は,次のように判断しました。

裁判所「大学では,懲戒処分を受けずに定年退職をして希望した者は,全員,再雇用されている。だから,今回の教授も,譴責処分がされたという点を除いては,定年時に,再雇用されて68歳まで働けると期待するのはもっともだ。」
「教授に対する懲戒は,懲戒の理由となるような行動ではないので無効である。」
「大学による教授の再雇用の拒否は,不合理・不相当であるから,再雇用されたのと同様の雇用関係が続いていたとみるべきである。」

※引用すると,「労働者において定年時,定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合,使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,この場合,使用者と労働者との間に,定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である。」というのが,判断の基準になります。


再雇用の決まりがあるのに,定年に到達した後,再雇用してもらえないという相談はそんなに珍しい話でもありません。
使用者側と労働者側とで,思惑や意向が食い違いやすいケースなのだと思います。
”定年後も再雇用されると期待することに合理的な理由があるか”というのが重要なポイントになります。

使用者としては,後々,再雇用の拒否が出来なかったという事態に陥らないように,きちんと手順を踏んでいく必要があります。


3 そういえば・・・

関連して,高年齢者の活躍できる環境の整備を目的に,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され,令和3年4月1日から施行されます。
この改正は,定年の70歳への引上げを義務付けるものではありません。
ただ,社会にあっても,個々の企業・使用者にあっても,高齢者をどのように労働人口として活かしていくのかが問われていくのだと思います。


(2020/10/7追記)
その後ですが,大学側が控訴・上告をしたようですが,最高裁が上告を退けました。
懲戒処分は無効だとして,慰謝料と未払賃金の支払いを命じた一審,控訴審の判決が確定したようです。


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