ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

財産分与と建物明渡し

はてなブログから「前回の投稿から1か月経つけど,そろそろ次の投稿をしてはいかが?」と催促のメールが届いてしまいました。


●有料のレジ袋と,エコバッグの持参が浸透してきたように感じます。
レジ袋有料化前は,例えば,コンビニで「テープで結構です(レジ袋は不要です)」と伝えていましたが,最近ではこのように伝えても「レジ袋はご利用でしょうか」と聞き返されてしまうことが増えたように思います。
レジの店員さんのオペレーションが変わったためかと思いますが,原則例外がひっくり返ったために,「レジ袋は不要です」と明言した方がかえってお互いにストレスにならないのだろうと感じます。


●下半期から母校の法学部の学生に対して,刑事訴訟法の講義を担当することになりました。
司法試験の受験を目指している学生が対象ではありますが,まだ学部生ということで,情報を伝える相手の理解度・到達度に応じた「わかりやすさ」の追究には終わりが無いなと感じます。


●さて,本題です。
先月,家事事件に取り組む上で重要な最高裁決定がありましたので,紹介したいと思います。

以下のような事例でした。

平成12年に結婚し,平成29年に離婚をした夫妻がいました。
婚姻中に得た財産の中に建物があり,この名義はAさん(おそらく夫?)で,離婚後もBさん(おそらく妻?)がこの建物に居住しているという状況が続いていた,という事例です。


原審である東京高等裁判所は,財産分与の審判において建物を分与しないとされたときは,建物の明渡し請求は,別途,民事訴訟を提起すべきであって,家事審判の中では扱わないとしていました。
これでは,一度の手続で離婚によって整理すべき条件等を解決できず,煩雑となってしまいます。
実際上は,例えば,双方に代理人が就いており,建物の居住をどうするかといった条件まで合意した上で和解し,離婚が成立すれば,わざわざ元配偶者を相手に裁判を起こす必要もありませんが,自宅をどうするのか具体的な約束をしないまま離婚をしてしまった場合には,この問題が顕在化してくるということになります。


そこで,最高裁は,
家事事件手続法154条2項4号は,このような迂遠な手続を避け,財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者に対し,上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして,同号は,財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき,他方当事者に分与する場合はもとより,分与しないものと判断した場合であっても,その判断に沿った権利関係を実現するため,必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。
そうすると,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき, 当該他方当事者に対し,当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。

として,家事審判の手続の中での建物の明渡しを命じることが出来ると判断しました。

一度の手続で解決できる内容を増やしてくれたということになります。


この事案は離婚後の財産分与審判についての決定ですが,人事訴訟法32条2項は「裁判所は、・・・当事者に対し、・・・その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。」とされているため,離婚訴訟にも役立てたいところです。


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