ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

ウーバーイーツ

街中では,”uber eats”のリュックを背負って走る方をよく見るようになりました。


今回は,ウーバーイーツの配達員に関するニュースの紹介です。


こんなニュースがありました。
☑ ウーバーイーツの配達員に追突され怪我をした女性が,配達員の方だけではなくウーバーイーツの運営会社に対しても,損害賠償請求訴訟を提起しました。

☑ その女性は大阪市内の歩道でuber eats配達員が運転する自転車に背後から衝突され,首や腰を捻挫するなどの怪我をしたとのことです。

☑ 女性は配達員に対して治療代などを求めていましたが交渉が折り合わないため,配達員はウーバーとの指揮・監督関係があり使用者責任があると主張して,治療代など約250万円の支払いを求めて提訴したとのことです(後遺障害の有無は不明ですが,通院慰謝料なども含まれているかと思います)。

news.yahoo.co.jp


ちなみに,アメリカや欧州でもuber関連の訴訟が起きており,配達員や運転手の法的地位については議論がされています。
jp.techcrunch.com

jp.wsj.com




1 使用者責任とは

民法には,「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(後略)」との定めがあり,被用者の加害行為によって発生した損害について,使用者も責任を負うとされています。
他人を使用して経済活動をして利益を上げるのだから,その分,他人を使用した責任についても負担しましょうねという理由からです。


A社がBさんという従業員を雇っていたところ,Bさんが業務中のトラブルで,Cさんに怪我をさせてしまったなど,仕事中に第三者に怪我を負わせてしまったといった事例を予定されています。
判例でも,建設会社が他社から助手とともに自動車を借り受けて工事に使用していたところ,その助手が建設会社主催の娯楽行事の帰り道に交通事故を起こしたという事例や,弟の起こした交通事故について,助手席に同乗して運転の指示などをしていた兄に対しても責任を認めた事例などがあります。


2 ウーバーイーツの場合

ニュースのあった事例で,ウーバーイーツの運営会社側がどのように反論しているのかは分かりませんが,まずは配達員との間では業務委託であって,雇用していないのであるから,「他人を使用する者」に該当しないので,運営会社側まで責任は負わないという反論をするのだ・・・と思っていたら,ニュースによると「ウーバージャパンは取材に対し「個別の事案には答えられない」としたうえで、「配達員は個人事業主なので雇用関係はなく、業務委託の契約も結んでいない」とコメントしています。」とのことです。


よくある争い方では,雇用契約ではなく,委任or請負だとした上で,その業務内容の実態についての攻防となります。
今回はなんと業務委託の契約も結んでいないとの主張のようです。


おそらくは,運営会社は,個々の配達員と飲食店とをマッチングさせるだけですという主張でしょうか。

一つ参考になるかもしれないと感じたのが,今年2月28日に,トラック運転手と運転手を雇っている会社との間での裁判について最高裁判決が出ていて,菅野裁判官・草野裁判官の補足意見には,「・・・これを具体的にいえば,使用者である被上告人は,貨物自動車運送業者として規模の大きな上場会社であるのに対し,被用者である上告人は,本件事故当時,トラック運転手として被上告人の業務に継続的かつ専属的に従事していた自然人であるという点である。使用者と被用者がこのような属性と関係性を有している場合においては,通常の業務において生じた事故による損害について被用者が負担すべき部分は,僅少なものとなることが多く,これを零とすべき場合もあり得ると考える。なぜなら,通常の業務において生じた事故による損害について,上記のような立場にある被用者の負担とするものとした場合は,被用者に著しい不利益をもたらすのに対し,多数の運転手を雇って運送事業を営んでいる使用者がこれを負担するものとした場合は,使用者は変動係数の小さい確率分布に従う偶発的財務事象としてこれに合理的に対応することが可能であり,しかも,使用者が上場会社であるときには,その終局的な利益帰属主体である使用者の株主は使用者の株式に対する投資を他の金融資産に対する投資と組み合わせることによって自らの負担に帰するリスクの大きさを自らの選好に応じて調整することが可能だからである。さらに付け加えると,使用者には,財務上の負担を軽減させる手段として業務上発生する事故を対象とする損害賠償責任保険に加入するという選択肢が存在するところ,被上告人は,自己の営む運送事業に関してそのような保険に加入せず,賠償金を支払うことが必要となった場合には,その都度自己資金によってこれを賄ってきたというのである(以下,このような企業の施策を「自家保険政策」という。)。被上告人が自家保険政策を採用したのは,その企業規模の大きさ等に照らした上で,そうすることが事業目的の遂行上利益となると判断したことの結果であると考えられる。他方で,上告人は,被上告人が自家保険政策を採ったために,企業が損害賠償責任保険に加入している通常の場合に得られるような保険制度を通じた訴訟支援等の恩恵を受けられなかったという関係にある。以上の点に鑑みるならば,使用者である被上告人が自家保険政策を採ってきたことは,本件における使用者と被用者の関係性を検討する上で,使用者側の負担を減少させる理由となる余地はなく,むしろ被用者側の負担の額を小さくする方向に働く要素であると考えられる。」とあります。

運営会社からすると「多数の運転手を雇って運送事業を営んで」いないし,「業務上発生する事故を対象とする損害賠償責任保険に加入するという選択肢」はない,といった立場になるのだろうと推測しています。

ウーバーイーツの運営会社と,配達員個々人と,注文を受けて配達をしてもらう飲食店との三者間で,どのように報酬が動いているのか,注目したいと思います。


弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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