ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

給与ファクタリング

まとまった時間が必要な仕事は,平日夜か,平日夜でも時間が足りない場合にはGWのような大型連休を使うことになりますが,今年も漏れなく,大規模な案件の準備時間となっています。


休憩中に,最近の判例時報を読んでいたところ,最近話題の給与ファクタリングについての裁判例が掲載されていました。



「お金の貸し借り」を「給与という権利の売買」にしてしまって,さも借金ではないかのように思わせるという手法が広まっています。



「一般に「ファクタリング」とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。
また、最近では、このスキームを個人に当てはめ、個人が勤務先に対して有する給与(賃金債権)を、給与の支払日前に一定の手数料を徴収して買い取り、給与が支払われた後に、個人を通じて資金の回収を行う「給与ファクタリング」という手法も現れています。
下記のとおり、「給与ファクタリング」を業として行うことは、貸金業に該当します(貸金業を営む者は、財務局長又は都道府県知事の登録を受ける必要があります。登録を受けずに貸金業を営む者はヤミ金融業者です。)。
また、「事業者向けファクタリング」についても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは貸金業に該当するおそれがあります。
新型コロナウイルス感染症に便乗して、ヤミ金融業者による違法な貸付け等が行われる懸念もありますので、ヤミ金融業者を利用することのないよう十分注意してください。」
金融庁のホームページより引用 ファクタリングに関する注意喚起:金融庁 )
とあります。



判例時報に掲載されていたのは,「給与という権利を買い取った業者」から「給与という権利を譲渡した労働者」に対して,労働者が受け取った給与を支払え,という裁判を起こしたというものでした。


「売買」という体裁を取れば,貸金業法出資法の規制をかいくぐることが出来てしまいますので,”このスキームって本当に「売買」と言い切って良いの?”がポイントでした。


裁判所は,
1 労働者である顧客から給与債権を買い取って,金銭を交付した業者は,常に労働者から交付した金銭を回収するしかない。つまり,労働者からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組みが構築されている。
2 このような仕組みは,経済的には,貸付けによる金銭の交付と返還の約束と同様の機能であるから,業者から労働者への買取代金の交付は,貸金業出資法にいう「貸付け」である。
3 貸金業法出資法の定める計算方法に引き直すと,業者は,年850%を超える利息を取ることになるが,これは貸金業法の規制を大幅に超過するから,無効である。
4 したがって,業者から労働者に対して,給与を業者に渡すようにとの請求はできない。
としました(東京地裁 令和2年3月24日判決)。


ファクタリング業者と労働者の間で行われていることの実態は,消費者金融からの借入れや銀行系のカードローンと一緒だよねという当たり前の感覚を法律的に説明するとこうなります,という判決でした。


「借金じゃないから利息なし」など,そんなうまい話があるわけはないので注意を,という話でした。



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