ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

雇用調整助成金と整理解雇

コロナ禍での従業員の雇用維持を図るために事業主に対して休業手当などの一部を助成する,雇用調整助成金の支給決定額が4兆円を突破したようです。
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今日は,コロナ禍での整理解雇について少し裁判例を紹介しようと思います。


仙台市内全域を営業エリアとするタクシー会社の事案
裁判所は,
・乗務員の休業と雇用調整助成金,臨時休車措置の活用等により,収支は大幅な改善の余地があったことから,事業継続のために直ちに整理解雇を行わなければならないほどの緊急かつ高度の人員削減の必要性があったとはいえない。
雇用調整助成金の利用を検討する旨の説明を従業員にしていたことに照らすと,会社は,解雇に先立って,雇用調整助成金の利用することが強く要請されていたので,解雇回避措置の相当性は相当に低い。
等と指摘して,従業員を休業させて雇用調整助成金を受給する等の解雇回避措置を取らなかったことが,解雇が無効となる大きな理由の一つであるとしました。


②九州の貸切観光バス会社の事案
裁判所は,
新型コロナウイルス感染拡大によって,令和2年2月中旬以降,貸切バスの運行事業が全くできなくなり,3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥っており,3月当時,雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあった。
・しかし,解雇の手続が不相当であり,また人選の方法が不合理である。
として,解雇を無効としました。


いずれもコロナ禍での解雇が問題となったケースですが,整理解雇の当否を検討するにあたって裁判所は,雇用調整助成金を活用したか否か(活用することを検討することをしたか否かも含めて)についても着目しています。

コロナ渦にあっても,経営が苦しいという理由だけで整理解雇が直ちに認められるわけではなく,【人員削減の必要性】【解雇回避の努力を尽くしたか】【対象者選定が合理的か】【手続が妥当か】について検討が必要ですね。

現在はまだ序章に過ぎず,ワクチン接種が進み雇用調整助成金の特例措置の延長が止まってから,整理解雇の問題が大きくなるのではないかと推測しています。


弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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