ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ

保全の必要性と強制競売

少しマイナーな分野の勉強をしました。

仮差押え,仮処分といった保全命令を争う方法として,
保全取消し」
があります。

似たような選択肢に「保全異議」というものがありますが,保全異議は保全命令の要件を欠いていることを争うのに対して,「保全取消し」は発令後の事情を理由にその取消しを求めるというものです。


保全取消しの理由には,保全命令の発令後に,被保全権利や保全の必要性が消滅したことが挙げられています。

この保全の必要性が消滅した場合の典型例は,発令後に債務者が十分な財産を有するに至ったとか,債権者が物的担保を得たような場合とされています。

それから,定番の書籍に書かれている事例としては「債権者が即時無条件の債務名義を得たにもかかわらず長期間本執行を行わない場合,保全執行に着手しないまま執行機関を経過した場合,執行期間内に着手した保全執行を期間経過後に続行せず放置する場合,終局判決後に本案訴訟を取り下げた場合」*1が挙げられています。

と,この辺りまでは,まぁ弁護士であれば誰でも知っていますよねという内容です。


今回は,不動産の差押え,強制競売と順次手続が進んだ場合における保全の必要性がテーマでした。


ケースとしては,例えば,

①仮差押えをした後に,債務名義を得て本執行に移行したところ,無剰余取消しとなった場合に,保全取消しが認められるか。

②訴訟提起をして債務名義を得て,強制競売まで手続が進んだところ,無剰余取消しとなったので,仮差押えをすることが認められるか。

といった場合が想定されます。


①のケースでは,
【必要性×】仮差押決定を受けた後,本案訴訟で勝訴し債務名義を取得したときは,「特段の場合を除いて」執行開始の要件を備えれば保全の必要性は消滅するところ,仮差押え目的不動産について強制競売開始決定がされたが,無剰余により取り消されても「特段の場合」に該当しないとした裁判例*2がある一方で,

【必要性○】将来的に被保全権利が満足される可能性が残されている以上,無剰余取消となったことのみで保全の必要性が消滅したとはいえないとした裁判例*3もありました。


②のケースでは,
【必要性○】現時点で不動産の強制競売を申し立てたとしても,無剰余取消しとなる蓋然性が高いが,他方で,優先債権が将来にわたって減少又は消滅することも考えられるから,遠くない将来においては剰余が生じて強制競売又は競売申立てが許される時期が到来する可能性があるとして,将来の強制執行保全する必要性を認めた裁判例*4がある一方で,

【必要性×】無剰余を理由に強制競売の手続が取り消されるおそれがある場合であっても,債務名義を有し不動産についても直ちに差押えを求めることができる以上,その執行を保全するという観念を入れる余地はなく,保全の必要性は認められないとした裁判例*5もありました。


保全と執行の先後関係,無剰余取消しとなったか否か(その可能性に留まっているか否か)など分析の切り口も複数あって,奥が深い・沼の深い分野だなと感じます。



弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
【事務所】
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階
℡045-663-2294
www.ooishimakoto-lawyer.com

*1:瀬木比呂志「民事保全法判例タイムズ社449頁

*2:平成3年5月27日名古屋高裁金沢支部判決 判タ777号215頁

*3:平成11年7月15日大阪高裁決定 金法1564号71頁

*4:平成26年3月3日大阪高裁決定 判時2229号23頁

*5:平成20年4月25日東京高裁決定 判タ1301号304頁