ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

改葬と離檀料

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お墓参りに行けない人に代わって掃除やお参りをする「墓参り代行サービス」。
故郷のニュースに触れつつ、墓じまいに関する報道を見かけることが増えてきたように感じました。

お寺からお墓を移転・撤去して檀家を離れることを「離檀」といい、改葬で離檀をする際にお寺に渡すお布施のことを「離檀料」といいます。
もちろん気持ちの問題ですので、墓じまいをする側から支払う分には問題は生じませんが、時にはお寺の側から高額な離檀料を請求され、トラブルになるというケースが生じています。

●改葬とは

埋葬した死体を他の墳墓に移したり、収蔵した焼骨を他の納骨堂に移動することを「改葬」といいます。

厚生労働省の統計では、平成12年には66,643件だった改葬件数は、平成21年には72,050件、平成30年には115,384件と過去10年間で約1.6倍ほど増えています。

改葬はいつでも、誰でも、自由にできるというものではなく、市町村長の許可を得なければなりません(墓地、埋葬等に関する法律5条1項)。

具体的には、改葬をする場合には以下の手続が必要です(墓地、埋葬等に関する法律施行規則2条)。
(1) 墓地・納骨堂の管理者が作成した埋蔵証明書を用意する。
(2) 改葬先の墓地等の管理者の受入承諾書を用意する。
(3) (1)(2)と合わせて、改葬許可証交付申請書を提出する。
(4) 遺骨を取り出す。

【参考:横浜市の改葬手続き案内 改葬(遺骨の移動)の手続き 横浜市 】

これらの手続を経ずに改葬をすると、墳墓発掘罪(刑法189条)や墳墓発掘死体損壊等罪(刑法191条)といった犯罪に該当するという問題が生じます。

●離檀料を払わないと埋蔵証明書をもらえない?

このように改葬には、墓地・納骨堂の管理者が作成した埋蔵証明書という書類が必要です。
そこで、 ーおそらくは、檀家の減少による寺院側の経営苦という背景もありー 改葬に伴って高額な離檀料を請求されるというケースが生じるようになりました。

離檀料を含む債権(他人に対し一定の給付を要求することができる権利)は、「契約」か、法定債権(事務管理、不当利得、不法行為)に該当する場合でなければ発生しません。

改葬が、管理者に法定債権を発生させるというのは考えにくいですから、あとは「契約」があるか否か、という問題になります。

そのため、墓地使用契約に離檀料の規定がない場合には、管理者と使用者との間で契約がないので、檀家から請求することはできない(使用者に支払う義務はない)ということになります。

また、お寺側が改葬を拒否することが民法709条の不法行為に該当する余地があることを示唆している裁判例もあります*1
契約がない場合に、お寺側が「離檀料を払わない限り、埋蔵証明書を発行しない」との対応することは悪手です。


高額な離檀料を請求された場合には、一度、「本当に払った方が良いのか?(支払いたいか?)」をよく考えた方が良いでしょう。


【追記】
こんな質問を頂戴しました。

Q 墓地使用者から管理者側に対して、改葬をしたいと申し込んだ時点で、管理者側には埋蔵証明書を発行する法的な義務が生じるか否か。


現時点での私の考えは、(契約上の根拠がない限りは)管理者側には埋蔵証明書を発行する法的な義務がある、とまでは言えないというものです。

墓地、埋葬等に関する法律第5条では、「埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。」として、改葬しようとする墓地使用者に対して、行政の許可を受けることを求めています。

この条文を受けて、墓地、埋葬等に関する法律施行規則第2条では、改葬の具体的手続として、墓地管理者が作成した埋蔵証明書の提出を求めています。
具体的には、
「2 前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 墓地又は納骨堂(以下「墓地等」という。)の管理者の作成した埋葬若しくは埋蔵又は収蔵の事実を証する書面(これにより難い特別の事情のある場合にあつては、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面)
としています。

墓地管理者が所在不明だったり、あるいは、墓地管理者が改葬に反対している等の理由で、埋蔵証明書を発行してもらえない場合には、「(これにより難い特別の事情のある場合にあつては、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面)」として、埋蔵証明書が取得できない経過を詳細に記載した報告書や管理料等を支払ってきたことが分かる資料など、現在の墓地に遺骨が埋蔵されていることを立証する書面を提出することで、改葬の許可を得ることができる取扱いとなっています(昭和30年2月28日衛環第22号)。

このような形で、行政から墓地使用者に対して埋蔵証明書(あるいはこれに代わる書類)の提出を求めていますが、これは墓地管理者と墓地使用者との間の権利義務を定めたものではありませんので、法律上、埋蔵証明書の発行が義務付けられているとまではいえません。

契約上の根拠がない限り、との留保をしたように、墓地管理者と墓地使用者との間で交わされた契約書にその根拠を見いだすことができれば、埋蔵証明書の発行が義務(債務)ということになります。

なお、契約上の根拠がない場合であっても、埋蔵証明書を発行に協力しない場合を含め、例えば、何か費用負担を求める等の事情と相まって、改葬の手続を拒否することが墓地管理者の使用者に対する損害賠償義務(不法行為)を生じさせる、という場合がありえます。

(士業の方には理解ができ、他方で、一般の方には理解が難しいかと思いますが、)管理者側に埋蔵証明書を発行する法的な義務があるか否かと、改葬の手続を拒否することで墓地管理者の使用者に対する損害賠償義務が生じるか否かは、異なる問題となります。



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*1:仙台高裁平成7年12月14日判決 判時1600号107頁。但し結論は否定。