ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

今月の判タ

事務所で購読している判例雑誌の一つに判例タイムズ(通称、判タ)がありますが、今月号(1491号)は参考になる事例が盛りだくさんでした。


一つ目は、野村HD・野村證券 vs 日本IBM の事例です。
野村證券が投資一任業務に使用するコンピュータシステムの開発を、野村HDから日本IBMに委託したところ、目標の時期までに稼働開始することが困難となったので開発を断念したというものです。

①野村HD・野村證券が、日本IBMに対して、システム開発業務を適切に遂行しなかったとして損害賠償請求をし、他方で、②日本IBMから野村HDに対して、未払いの報酬を請求しました。
第一審では①が一部認められ、②が棄却(つまり敗訴)されていましたが、控訴審では逆転し、①が棄却され、②が一部認められました。

控訴審では、システムを完成して稼働させることや、稼働させる期限を目標の時期とすることは日本IBMの債務ではないと判断しました。
「ビジネス上の目標が重要であるからといって、ビジネス上の目標がそのまま契約上の債務として合意されるとは限らない。」として、各個別契約書の記載内容を拾い上げながら、「本件システムを最終的に完成させることや、本件システムを平成25年1月4日にSTARのサブシステムの一つとしてSTARと同時に稼働開始させることが、契約当事者双方のビジネス上の目標であったという事実は認定できるものの、これらが契約上のIBMの債務として合意されたという事実を認定するには、無理がある。」等として判断しています。

ベンダー・ユーザー間のシステム開発紛争について参考となる事例でした。



二つ目は、自筆証書遺言を無効とした事例です。裁判官のお一人は、岡口基一裁判官でした。
被相続人の筆跡との同一性を肯定する鑑定書が提出され、かたや、筆跡の同一性を否定する鑑定書も証拠として提出されていました。
裁判所は、①対照資料の原本が提出されておらず、また、原本作成者以外の者がその一部に改ざんを加えることが容易な書類であることや、②筆跡との同一性を肯定する鑑定書は、繰り返し現れる文字の筆跡に変動を検討対象から除外していること、③遺言書の作成・保管・発見にかかる経過も信用できないこと等から、被相続人が遺言書を自書したと立証されていないと判断しました。



三つ目は、妻が、独身女性に対して、夫と不貞行為に及んだとして不法行為に基づく損害賠償請求をしたという事案です。
近年は、LINEの履歴から不貞行為の立証が容易となるケースも増えてきましたが、この件は、むしろ、LINEの履歴から不貞行為の存在が否定されたというものです。

夫と被告とが、東京・石垣島・北海道などを一緒に訪問して宿泊し、あるいは福岡市内のラブホテルに相当回数宿泊したことは、被告も争わず、判決の前提となる事実として認定されていましたが、「不貞行為に及んだことは否定する、アダルト・チルドレンからの回復等を目的として相互学習する師弟関係にあったのであって、一緒に旅行をして宿泊したのは自助グループ等の学習講座やミーティングに参加するためだった。」等と反論し、LINEのトーク履歴を証拠として提出していました。

裁判所は、このLINEのトーク履歴から、アダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚する夫と被告(女性)とは、精神世界の理論について相互学習するという師弟関係にあること、あくまで相互学習における分かち合いの相手(シェアリングパートナー)という立場に徹するべきだと読めるやり取りがあること等を指摘し、
”夫と被告とが、東京・石垣島・北海道などを一緒に訪問して宿泊し、あるいは福岡市内のラブホテルに相当回数宿泊したことは認められるが、不貞行為の存在については証明不十分である”として、妻の請求を退けました。

この事例は、原告には代理人が就いているのに対して、被告には代理人が就いておらず、被告が自身で応訴し、請求棄却の判決を得たというもので、それだけでも珍しい事例ですが、加えて、宿泊やホテル滞在の事実が認められるにもかかわらず、不貞行為の存在がLINEのトーク履歴によって否定されるという点でも珍しい事例でした。



弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
【事務所】
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階
℡045-663-2294
https://www.ooishimakoto-lawyer.com/
https://souzokushindan.com/sys/partners/kanagawa_yokohamalaw/