ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

納骨壇使用契約の解除

納骨堂や霊廟と呼ばれる建物にて、「納骨壇」を設置し、管理するという形式が普及しています。
納骨堂には、遺骨を収納するだけの「ロッカー型」、仏壇の形をしていて納骨と礼拝が同時に行える「仏壇型」、参拝ブースまで遺骨が自動搬送されてくる「自動搬送型」などがあります。


納骨壇の使用契約の法的性質を争う裁判例は珍しく、判例雑誌に参考となる事例が紹介されていました。

概要は以下のとおりです。

 納骨堂の使用に係る管理規約に同意して、納骨壇の使用契約を結んだAさん。
 管理規約には、「永代使用料および永代供養料の全額を納付しなければならない。但し、納付した金額については一切返還しない。」と明記されていました。
 Aさんは、納骨壇の鍵を受領しておらず、納骨壇を使用したことがないまま、納骨堂に対して、納骨壇の使用契約を解約するとともに、支払済みの永代使用料及び永代供養料(合計140万円)の返還を求めた、というケースでした。

主なポイントは、以下の3点です。

 ① 納骨壇の使用契約は解約告知により終了したか。

 ② 納骨壇を一度も使用しなかった場合に、支払済みの永代使用料や永代供養料の不当利得返還請求権は生じるか。

 ③ 管理規約に定めた不返還特約は有効か。


裁判所は、以下のとおり判断しました。

 ① 納骨壇の使用契約は解約告知により終了したか。

納骨壇の使用契約は、
●納骨堂が使用者のために遺骨又は遺品を保管することを約束し、その帰宅の報酬として使用者が納骨堂に対して永代使用料を支払うとの「有償の諾成寄託契約
 +
●納骨堂が使用者のために永代供養という役務提供を行うとの「準委任契約
混合契約である。

そのため、使用者は、民法662条《寄託者はいつでもその返還を請求することができる》に基づいて遺骨や遺品の保管に係る契約を解除できるし、民法651条《委任はいつでも解除できる》に基づいて永代供養に係る契約を解除できる。

つまり、解約告知によって契約は終了したと判断しました。


 ② 納骨壇を一度も使用しなかった場合に、支払済みの永代使用料や永代供養料の不当利得返還請求権は生じるか。

解約告知によって契約が終了したとすると、既に支払った永代使用料や永代供養料を返せと言えそうです。

既に支払った永代使用料や永代供養料を、

●「遺骨または遺品を永代にわたって保管し、供養してくれることへの報酬
 と、
●「納骨壇を使用し、供養を受けることができる地位を与えられ、これによって宗教的感情を満足させる効果が生じたことへの対価

とに区別し、前者については、契約後、まだ遺品を保管し、永代供養もしていないのであるから報酬は発生せず、この部分について返還義務を負うと判断しました。

他方で、後者については返還義務を負わないと判断しました。


 ③ 管理規約に定めた不返還特約は有効か。

そうすると、「永代使用料および永代供養料の全額を納付しなければならない。但し、納付した金額については一切返還しない。」との管理規約によって、返還を拒めるのかという問題が登場します。

消費者契約法9条1号では、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」につき、当該超える部分について、契約の条項を無効とするという規定があります。

今回のケースでは、Aさんは納骨壇の鍵を受領しておらず、納骨壇を使用したことがないのであるから、納骨堂側に損害は生じていないから、管理規約は無効である。

つまり、 ② 納骨壇を一度も使用しなかった場合に、支払済みの永代使用料や永代供養料の不当利得返還請求権は生じるか。 で、返還義務を負うとした部分について、納骨堂側は返還を拒むことができないと判断しました。



一般化することは難しいですが、納骨堂との契約内容を分析する上で貴重な事例でした。


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