ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

今月の判例雑誌

東京都の新型コロナの感染者数が、初めて1日当たり4万人を超える見通しとなるなど、感染が拡大しています。

私自身も先日、初めて「COCOA」から接触通知がありました。
その日は職場と自宅の往復と、成年後見の関係で遠方の病院に出向いた日でしたので、おそらく公共交通機関を利用した際にだろうなと思いながら過ごしていました。

さて、今月の判例雑誌(判例時報判例タイムズ)も実務上、参考になる事案が多く掲載されていました。

①交通事故 後遺障害逸失利益

横断歩道を歩行していた事故当時17歳の女性に、自動車が衝突したという事故でした。

被害者は事故当時、全盲視覚障害者でしたが、本件事故により認知困難・記憶困難などの障害が残り、終身、労働能力を100%喪失したとの判断がされました。

後遺障害逸失利益は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数」で決まりますが、「労働能力喪失率」と「喪失期間」が決まってしまうと、あとは「基礎収入」を争うしかありません。

一審判決は「賃金センサス男女計、学歴計、全年齢の平均賃金の7割」と認定しましたが、広島高裁は「本件事故前の控訴人X1については、全盲視覚障害があり、健常者と同一の賃金条件で就労することが確実であったことが立証されているとまではいえないものの、その可能性も相当にあり、障害者層用(雇用の誤字?)の促進及び実現に関する事情の漸進的な変化に応じ、将来的いにその可能性も徐々に高まっていくことが見込まれる状況にあったと認めることができる。」等として、「賃金センサス男女計、学歴計、全年齢の平均賃金の8割」としました。

(広島高裁令和3年9月10日判決)

②婚姻費用の分担の始期

夫婦間で離婚に向けた別居をしている間、別居期間中の生活として「婚姻費用」の支払いを求めることができます。
個人的には婚姻費用を制する者は離婚を制すると言ってよいと思うほど、離婚をめぐる係争では重要な手続になります。

実務上は、この婚姻費用の分担の始期は、婚姻費用の分担請求をした時、婚姻費用分担調停を申し立てた時とされるのが一般です。

宇都宮家裁令和2年11月30日は、
「婚姻費用分担義務が生活保持義務に基づくものであるという性質及び当事者の公平の観点に照らし、婚姻費用分担の始期については、請求時を基準とするのが相当である。
そして、本件においては、申立人が相手方に対し、内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明しているのであって、この時点をもって婚姻費用の分担の始期とするのが相当である
と判断しました。

(調停申立てに先立つ)内容証明郵便が届いた時とした事案でした。

また改定後の算定表の公表前の未払い分も含めて、改定後の算定表により分担額を算定した事例でもありました。

宇都宮家裁令和2年11月30日審判)

③出産後1年を経過していない女性労働者の解雇無効

保育士として稼働していた原告は、産休・育休を経て、復職を希望したところ、解雇されたという事案。

被告からは、雇用契約の合意解除(退職合意)があったとの反論がされましたが、こちらは一蹴。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第9条4項は「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定していますが、
これは、「妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。」として、「使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇事由があることを主張立証する必要がある」との一審判決の判断のとおりだとしました。

(東京高裁令和3年3月4日判決)

不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金と法定重利

よく、投資信託について勉強をしていると、「複利」という表現を見かけますが、民法にも似たような規定があります。
民法405条は、「利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。」として、利息の不払いがあった場合、これを元本に組み入れることができるとされています。

かなり古い判例ですが、貸金債務の場合には、民法405条にいう「利息」には「遅延利息」も含まれると判断したものがあります。
不法行為に基づく損害賠償債務の場合も同様といえるのかが争点でした。

最高裁は「これに対し、不法行為に基づく損害賠償債務は、貸金債務とは異なり、債務者にとって履行すべき債務の額が定かでないことが少なくないから、債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって、一概に債務者を責めることはできない。また、不法行為に基づく損害賠償債務については、何ら催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており、上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。」として、
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は、民法第405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。」と判断しました。

最高裁令和4年1月18日判決)



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