ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

「●●ペイ」

2か月ぶりの更新となってしまいました。

給与をキャッシュレス決済の口座に振り込む「デジタル給与払い」が解禁される見通しだとのニュースがありました。

私も日常生活の中で「PayPay」を利用していますが、このキャッシュレス口座に給与を振り込めるようにする省令の改正を目指しているという内容です。
news.yahoo.co.jp

これってどうなんでしょうね、というのが今日のテーマです。


労働基準法は、24条で、
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払・・・うことができる。」
と定めています。

一文目はとても短いようで、歴史の詰まった条文です。

通貨で」とありますが、これは現物給付を禁止する趣旨です。
日本でも、たった150年ほど前までは、丁稚奉公と呼んで、職場での住み込み労働があり、衣食住の保証を給与の支払いに代えていました。

また、元々、この条文が想定していたのは給与として「現金」を支払う方法でした。
昭和の古いドラマ・漫画なんかには給与袋を持って帰ってくる夫(あるいは帰宅途中で紛失し、家族に激怒される夫)、という姿が描かれていました。


その後、労働者の同意があり、労働者の指定する本人名義の預金口座であれば「口座振込」の方法でもOKとなりました。

労働基準法施行規則は、7条の2で、
「使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み」
と定めています。


余談ですが、振込手数料を差し引いて振り込むと、「全額」ではないので違法だとの裁判例もあります。

”街弁あるある”ですが、
民法に立ち返っても、485条は、
「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。」
と定めています。
支払う義務を負っている側が預金口座に振り込む方法で支払うときには、支払う義務を負っている側が振込手数料を負担すべきだ、ということになります。


今回のニュースは、先ほどの労働基準法施行規則にある賃金の支払方法に、「●●ペイ」を加えようというものです。


私自身の生活を振り返ってみると、「PayPay」で日常の買い物から公共料金の支払い等の全部が完結するわけではなく、限定的な場面でだけ活用しています。
もし私が会社の従業員で、給与を受け取る立場にあったとすると、「PayPay」で受け取った給与の多くを銀行口座に出金することになります。

そのように考えると、まだまだ「●●ペイ」払いは、社会の状況が追いついていないかなと思います。


弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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