現在、判例時報では「講話 民事裁判実務の要諦 ー裁判官と代理人弁護士の方々へ」が連載されています。
個人的には以下の解説が勉強になりました(要約)。
【損害額の証明度の軽減】
最三判平成20.6.10裁判集民228.181は、原告の採石権に対する侵害行為に基づく損害額の立証が極めて困難な場合に、損害の発生を認定することができる以上は、法248条を適用せずに請求を棄却した原判決を法令違反があるとして破棄。
法248条の解釈として、法文の言う「損害の性質上」とは、当該「損害そのもの」が持つ、「固有の性質上」や「客観的な性質上」、「法的な性質上」を意味するものではなく、「(損害が生じたことが認められる)当該訴訟(事案)における損害の性質上」、換言すれば「当該訴訟の個性や事案の特質・特殊性により損害額を立証することが極めて困難な場合であること」を意味する。
「主観的に」立証が極めて困難であると思料して必要十分な主張立証活動をしない場合を除外し、「客観的」な立証困難性が認められる場合を適用対象とする。
(2518号136頁)
【現在の詳細な供述による過去の動かしがたい事実の軽視の危険】
長期にわたり継続する客観的(動かし難い)事実・証拠がある場合には、規範的観点を考慮し、このこと自体に重きを置いて証拠原因を形成するということは裁判実務上重要である。
(2521号128頁)
【口頭による合意認定の誤り】
客観的資料に基づく、一見すると口頭の合意があったかに見えても、果たして「法律効果の発生する確定的な意思表示の合致があった」という認定判断ができるか否かは別問題である。
相手方に対する事実上の信頼を、法的拘束力のあるものに高め、法的保護を受けるためには、規範的・法的観点に耐えられる段階を経て、互いに法律上の権利義務の関係の成立を認識・認容する必要がある。
(2521号128頁~129頁)
【専門的意見の慎重な評価の必要】
・内科医作成の成年後見制度用診断書に長谷川式検査の結果を始め、MRI検査結果等の客観的な精神医学的根拠の記載がない例
・高齢者がパーキンソン病のオンオフ現象の影響下にあり、オフ現象にあることを知りつつ診断書記載の長谷川式検査を実施したことが、当該訴訟で取り寄せた診療録により判明する例
・意に反して、非監護者に初診の医院に連れられて長谷川式検査を受診させられており、検査に対して嫌悪感を持ち、消極的姿勢で検査に臨んでいることが検査結果に影響を及ぼした例
・診断書作成の医師に対する弁護士会照会の回答書記載の所見と、看護日誌の記載とが明らかに矛盾し、事実に反する記載が複数箇所認められる例
(2521号131頁~134頁)
【固い認定により事案の真相(事案の筋)を見誤る危険】
高度の蓋然性の立証を固定的に高度のものと把握し、いわゆる「固く認定」すると、当該事案全体の真相が明らかにならないことから、実体法規に従って勝つべき者が勝つという解決とならないことがある。
当該要件事実の時点に絞った「微視的な観点」のみでなく、むしろ、時系列に全体として原因と結果を見るという「巨視的な視点」で事実認定をする必要性がある。
(2521号135頁~136頁)
【立証責任の再確認と検討の必要性】
介護等を受けていた被相続人からはもとより、他の相続人からも異議がなく容認されており、後に争われることを予想していなかった被告による長期間の管理行為による使途を証する領収書等の証拠方法を過去に遡って厳格に求めたり、被相続人に係る金銭出納帳の記帳をしていなかったことを後になって責めたりすることは、規範的観点からは相当とは思われない。
(2521号136頁)
【実況見分調書の「作図手法を原因とする錯覚」は、注意を要する】
(2512号113頁)
【証拠説明書の記載の留意点】
・備考欄を設けない書式もある。備考欄があると立証趣旨欄がその分狭くなるためと思われる。そこで立証趣旨との項目を記載する欄に、「(備考)」とゴシック体で記載して太字で印刷し、個別番号の「立証趣旨」を記載する本文の末尾に備考事項がある場合に、これをゴシック体の太字で括弧書きする等の工夫が考えられる。
・「写し」の提出の場合、原本の存在の有無及び存在しない場合にはその理由について常に留意し、必要に応じて必ず確認する。例えば、弁済の有無が争点となる事例で金銭借用証書の原本の不存在は、弁済の事実の間接事実となる。
(2503号6頁~8頁)
勉強になる記載ばかりで、残りの連載も楽しみです。
弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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