弁護士として日々の業務に向き合う中で、避けて通れないのが「依頼を受けるかどうか」の判断です。
受任の判断を誤れば、依頼者とのトラブルに発展するだけでなく、事務所経営にも大きな影響を与えかねません。
弁護士一人で運営している事務所や小規模な事務所では、一つのトラブルが経営全体を揺るがすことさえあります。
そこで今回は、「自己防衛」の観点から受任を慎重に検討すべき典型的なケースを整理しました。将来独立を視野に入れている方にも、ぜひ一読いただきたい内容です。
1. 依頼者に関する問題
依頼者の言動や状況は、事件処理の負荷に直結します。以下のような特徴が見られる場合は、慎重な姿勢が求められます。
- 信頼関係の構築が困難な場合
依頼者が事実を偽ったり、重要な情報を意図的に伏せたりすることがあります。こうした場合、事件の進行に支障をきたすだけでなく、後に弁護士の責任が問われるリスクも。
また、弁護士への過度な不信感を抱いている人も要注意です。過去に他の弁護士とトラブルがあった経緯を持つ人は、同様の摩擦を繰り返す可能性があります。こちらの言動を逐一疑うような態度の依頼者とは、良好な協力関係を築くことが困難です。
- 過剰な要求や不当な期待
法的に不可能な要求を何度も繰り返す、弁護士の立場を無視して精神的な慰めまで求めてくるなど、範囲を超えた要望は、最終的に大きなストレスとなります。
常識の範囲を超えた頻度での連絡や、業務に支障をきたすほどの長電話を要求する依頼者は、注意が必要です。
SNSなどに無断で相談内容を公開する依頼者も問題があります。
- 弁護士費用に関する問題
「払える」と言いながら実際には支払いが滞る依頼者も存在します。初回の面談時から、金銭面で不安がある場合は見極めが必要です。
正当な理由がないのに執拗に値引きを求めてくる依頼者も、受任後にトラブルになりやすい傾向があります。
目先の着手金と、その案件が終結するであろう時期の自分自身の単価とを比べて、前者を優先してしまったがために受任してしまうものの、後から振り返って後悔する人が多いです。
- 依頼の目的が不当な場合
「相手に嫌がらせしたい」「復讐したい」といった動機が前面に出ている場合、その目的が達成されなければ必ず不満が生じます。
そうした依頼は、そもそも受けるべきではありません。
2. 事件内容に関する問題
事件の中身自体にリスクがあることもあります。
- 勝訴の見込みが著しく低い場合
客観的に見て勝てる見込みがない事件は、たとえ依頼者が熱意を持っていても慎重な判断が必要です。結果が出なければ、「なぜ受けたのか」と責任を問われるリスクも。
ただし、「依頼者が敗訴のリスクを十分に理解し、それでもなお特定の目的(和解交渉の糸口を探るなど)のために依頼を希望する場合」は、慎重に検討の余地があります。適度にこういった案件で実力をつけていくことも必要だとは思います。キャリアの長い先生はこの辺りがとても上手ですしね。
- 費用倒れの可能性が高い場合
特に経済的利益が少額の債権回収などでは、費用とのバランスが取れないケースがあります。「費用倒れでも構わない」と言われても、その真意は慎重に見極める必要があります。後日、真逆のことを言われてしまうケースも多々あります。
- 専門外・不得意分野の事件
経験や知識が不十分な分野では、適切な対応ができず依頼者に不利益を与えてしまう可能性があります。弁護士の責任としても、自信を持って扱えない案件は断るべきです。
例えば、私自身で言えば、親権が絡む離婚事件は完全撤退しました(扱い方が分かりません)。医療過誤、著作権なども、そもそも取扱いができません。
3. 弁護士側の問題
自身の状況が、受任に適していないこともあります。
- 利益相反の可能性
顧問先との関係や、他の事件との関係で利益相反が生じる場合、受任は厳に慎むべきです。チェックは事務所全体で徹底する必要があります。
- 業務過多によるキャパシティオーバー
すでに多数の案件を抱えている中で、新たな事件を受けることで業務の質が下がるようなら、本末転倒です。質の高いサービスを維持するためにも、無理な受任は避けるべきです。また、業務過多になる一歩手前で、補助者を雇う、勤務弁護士を雇うなどの判断も重要だと思います。
- 思想・信条に著しく反する事件
事件内容が自身の倫理観に大きく反する場合、誠実に職務を全うすることが困難になります。精神的な負担も含め、判断材料とすることが重要です。
受任前に意識すべきこと
- 面談での人柄観察: 話し方、態度、価値観など、依頼者の人物像をよく観察します。
- 事実関係の裏取り: 依頼者の話を鵜呑みにせず、証拠や第三者の証言を確認。
- 依頼目的の明確化: 何を望んでいるのかを具体的にヒアリングします。
- 見通しとリスク説明: 勝訴の可能性だけでなく、敗訴リスクや費用倒れの可能性についても率直に伝えます。
- 契約内容の明文化: 委任契約書には業務範囲・費用・解約条件を明記し、口頭での合意に頼らないようにします。
- 自身のリソース確認: 忙しさに流されて無理に受けない。自分の余力を正直に判断します。
- 断る勇気を持つ: トラブルが予見される場合は、毅然とした態度で断ることも弁護士の責任です。
まとめ
すべての依頼に応じることが、弁護士のあるべき姿とは思いません。適切な案件を選び、リスクのあるものは初期段階で見極め、受任を断る判断も必要です。
断ることは、決して依頼者に対する冷たい対応ではなく、信頼関係を築くための誠実な対応です。むしろ安易に引き受けたことで関係が悪化すれば、それこそ依頼者にとっても不幸な結果を招きます。また一部の高負荷案件によって、全体の作業効率が落ちれば、他の依頼者にも迷惑をかけてしまいます。
質の高いリーガルサービスを提供し続けるためには、「受けない」判断も重要な業務の一部です。自分自身を守りながら、長期的に依頼者に貢献できる体制を整える。そのためにも、受任の判断は常に冷静かつ慎重であるべきだと感じています。
弁護士の仕事は、専門性が高く、依頼者の人生に深く関わるため、精神的にも肉体的にも大きな負担がかかる場面が少なくありません。
目先の利益や評価にとらわれず、ご自身のペースを守り、リスクを適切に管理しながら、持続可能な働き方を意識することは、非常に重要だと思います。
「顧客を選ぶ者は顧客に選ばれる。
顧客を選ばない者は顧客にも選ばれない」
「細く長く」仕事を続けていく、これも大事な能力だと思います。
弁護士 大石誠
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