ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

特別寄与料

最高裁判所のウェブサイトを見ていたところ、特別寄与料に関する判決が出ていました。

民法1050条は、被相続人に対して無償で療養看護等をしたことにより被相続人の財産の維持について特別の寄与をした「被相続人の親族」から、相続人に対して特別寄与料を請求できると定めています。

平成30年の民法改正で新設された条文ですので、まだまだ事例の蓄積が少ない条文になります。

改正前の民法下では、相続人以外の親族(例えば同居している長男の妻、お嫁さんなど)が被相続人に対して無償で療養看護をしたとしても、遺言や契約がない限り、遺産を取得することができないという状況が生まれていました。
そこで、相続人以外の親族であっても、寄与に応じた額の金銭の支払を相続人に対して請求できるようにした、というのが民法1050条になります。

民法1050条5項は、「相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分に乗じた額を負担する。」と定めています。
今回の事例は、この条文の解釈をめぐる事例でした。

事案を簡略化すると、以下のとおりです。


【登場人物】
・亡A 令和2年6月死亡
・Aの相続人は、子Bと、相手方C(おそらくAの子で、Bのきょうだい)の2名
・特別寄与料の請求をしたのは、Bの妻であるD


【遺言書の内容】
亡Aは、遺言書を残していました。
内容は、「Aの有する財産全部を子Bに相続させる」という内容でした。
⇒相手方Cは、Aの遺言が遺留分を侵害しているとして、Bに対して、遺留分侵害額請求をしていました。


【Dの請求】
Dは、Cに対して、「遺言により相続分がないものと指定された相続人(C)であっても、遺留分侵害額請求権を行使した場合には、特別寄与料について遺留分に応じた額を負担すべきだ」として特別寄与料を請求していました。

おそらくは、C⇒Bの遺留分侵害額請求を、D⇒Cの特別寄与料で少しでも取り戻そう(実質的には一部、相殺したような形)を取りたかったのでしょう。


原審は「相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料について、民法900条から902条までの規定により算定した相続分(以下「法定相続分等」という。)に応じた額を負担するから(同法1050条5項)、遺言により相続分がないものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず、このことは当該相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されない」と判断して、Dの申立てを却下していました。


最高裁の判断(令和5年10月26日決定)】
最高裁は、
民法1050条5項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について、相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解される。このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。そうすると、遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないと解するのが相当である。
として、原審の判断を支持しました。

遺留分侵害額請求権を行使したとしても、具体的な相続分が生じたわけではありませんので、特別寄与料の負担は生じないということになります。

6か月の除斥期間と合わせて、注意すべき点が多い条文です。


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