ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

賃貸と離婚に関する2つの最高裁判決

早いもので令和4年もあと数日となりました。

今月も実務上参考になる2つの最高裁判決がありました。


1、いわゆる「追い出し条項」の適否
賃貸物件の賃料を借主が3か月滞納するなどして、連絡も取れない場合には、「物件を明け渡したとみなす」という家賃保証会社の契約条項の是非が争われた訴訟の最高裁判決がありました。

www3.nhk.or.jp


最高裁判決のケースは、以下のような契約条項の内容となっていました。


●家賃保証会社は、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができる。(条項1)


●家賃保証会社は、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、家賃保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなす。(条項2)


条項1については、「賃貸人」が賃料不払いの際に催告を要せずに解除できる事例と、今回のように「家賃保証会社」が無催告で解除しようとする事例とは性質が異なることを指摘し、条項1の記載された契約書を用いてはならないとの判断をしました。


条項2についても、①賃貸人・賃借人間の賃貸借契約が終了していない場合、賃借人は、物件を使用収益する権限が消滅していないのに、賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社の一存で、物件を使用収益する権限を制限できること、②条項2が発動したあかつきには、賃借人は、本来、物件の明渡義務をまだ負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれることを指摘し、条項2の記載された契約書を用いてはならないとの判断をしました。


判決の結論云々よりも、現実への影響を考えると、保証人の立てられない人や高齢者などの審査が厳しくなり、保証会社を利用して家を借りることが困難な人が増えることにならないか心配です。
(だから今回の判決が論理的におかしい、という趣旨ではありません。)



2、離婚時の財産分与
離婚をするとき、子がいる場合には親権者・面会交流・養育費等について必要な事項は協議で定めるとされ、この協議が整わないときは家庭裁判所が相当な処分を命ずることができる等とされています。

また、離婚をした者の一方は、相手方に対して「財産分与」を請求することができます。
財産分与の協議が整わないか、協議をすることができないときは、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ、家庭裁判所は「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」とされています(民法768条3項)


最高裁判決のケースですが、財産分与を求める財産の中には、夫婦で結婚後に出資して設立した医療法人の持分が含まれていました。

原審(東京高裁)は、出資持分は当事者双方が婚姻中にその協力によって得た財産に当たるとしながらも、財産の横領等を理由に1億5767万円余りの損害賠償を求める訴訟が係属中であること等に照らせば、出資持分については、現時点では財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるから、財産分与についての裁判をすることは相当ではないとして、出資持分を除いたその余の財産についてのみ、財産分与についての裁判をしました。

これに対して、最高裁は、①民法768条3項、人事訴訟法32条1項の文言からすれば、夫婦共有財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定しており、民法人事訴訟法その他の法令中には、財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しないこと、②離婚に伴う財産分与は、できる限り速やかな解決が求められるものであるから、一部につき裁判所が財産分与についての裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないことから、「離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当である。」と判断しました。


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