ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

「新型コロナウイルス影響下の法務対応」

www.biz-book.jp



マイクロソフト創業者で慈善活動家のビル・ゲイツ氏は,5年前(2015年),人類の最大の脅威となりうるのは,戦争よりも感染性のウイルスだと警鐘を鳴らしていました。
2020年6月8日現在が,将来,新型コロナウイルス感染症の第一波の真っ最中と評価されるのか,Afterコロナ・Postコロナの入り口と評価されるのかは分かりませんが,法律実務の世界も,例外なく,業務遂行のあり方についてどう変化していくべきか問われています。本書は,未知の感染症流行下における法律実務(契約関係・株主総会運営・労務管理民事訴訟など)に迫られている変化と,変化のヒントを集めたものと言えます。

●未知の感染症は,人間と人間との繋がりを分断する働きをしています。その意味で,「Social Distancing」の用語はどうかと思っていますが,それはさておき,本書の債権回収上の留意点として「最良の債権保全・回収の手段は,事業の存続を支援すること」「『競争から協調』へとモードを変える」必要があるのだ。」との指摘は,分断か連帯かという問いかけが,考量の天秤に乗るものは違えど,債権回収の場面でも登場するのだと示唆しています。

●既に緊急事態宣言が解除されてから相応の時間が経過し,執筆時の「今」と,購読者の「今」とでは状況が変化していることから,民事訴訟対応への影響については,情報の鮮度が落ちている気はしなくもありません(Amazonでの在庫切れが生じ,発送までの日数が掛かったことも要因ですが)。
ただ,感染症の流行によって裁判所の機能が大幅に制限される状況への対応がまとまっています。民事訴訟のIT化が劇的に進まない限り,現在から見たときの第二波や,未知の感染症が出現した場合に参照できる書籍かと思います。

パワハラ防止法が施行されました。

今回は法令紹介の投稿です。

昨年公布された,改正労働施策総合推進法(通称,パワハラ防止法」)が,一昨日(2020年6月1日)から大企業について施行されましたので,紹介します。
働き方改革に関連して制定された法律です。


(以下,厚生労働省のウェブサイトへのリンク)
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメントwww.mhlw.go.jp



改正された内容は,パワハラの基準を法令で定め,具体的なパワハラ防止措置を企業に義務付けることを目的としています。


1 パワハラの基準とは?
今回改正された内容では,職場におけるパワーハラスメントは以下の要素を満たすものだと指針が示されています。具体的には,

①優越的な関係を背景とした言動で,
 具体例)
・職務上の地位が上位の者による言動
・仕事に必要な知識や経験が豊富で,協力を得なければ仕事が上手く進まない同僚や部下の言動
・抵抗や拒絶ができないほどの,同僚や部下からの集団による行為
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,
 具体例)
・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・回数,人数,態様や手段が過度な言動
③労働者の就業環境が害されるもの。
 =就業環境が不快で、仕事に支障が生じるような状況

※これら①~③の要素を全て満たすもの。

とされています。
職場が同じであれば,正社員,パート,アルバイト,契約社員派遣社員など,雇用形態にかかわらず,適用されることとなります。

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養育費回収の代行?

とある著名人が養育費に関する新事業を立ち上げたとのニュースに接しました。

記事によれば,元配偶者に対して弁護士が連絡をし,養育費を毎月受け取るプランと,一年分を一括で受け取るプランとが用意されており,養育費に対する設定したパーセント(15%又は25%)でのサービス利用料が発生するという事業のようです。
例えば,月額10万円の養育費を,子が成人に達するまで10年間,毎月支払ってもらった場合,1.5万円/月×10年間=180万円のサービス利用料ですかね。

ちなみに,旧横浜弁護士会報酬規程によれば,養育費のような継続的給付債権の場合,報酬金の計算方法は,債権総額の10分の7の金額に対する16%となっています(本当はもう少し細かいですが,割愛します)。
例えば,月額10万円の養育費を,子が成人に達するまでの10年間,毎月支払ってもらった場合,10万円×10年間×70%×16%=134.4万円ということになります。

ひょっとすると,ひょっとするまでもなく, サービス利用料>普通に弁護士に委任した場合の費用 となりそうです。。

と,今回,記事にしようと思ったのは,こんなことではなく,これ非弁行為にならないのかな?という心配をしています。



1 非弁(ひべん)行為とは
弁護士法という法律があり,
①弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件など一般の法律事件に関して代理,仲裁,和解その他の法律事務を取り扱ってはいけないし,これらを斡旋することを仕事にもしてはいけませんよ。
②誰であっても,他人の権利を譲り受けて,訴訟,和解その他の手段で,権利を実現することを仕事にしてはいけませんよ。
と決められています。
弁護士の資格を有していない人が,自己の利益(報酬)のために,他人の法律事件に介入することは禁止しておきましょうねというものです。
同業者の友人でネタになるのは,司法修習終了後~弁護士登録まで1か月程度の期間,就職先の事務所で仕事の手伝いをするような場合ですかね。おっと,あくまでネタです。

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14年間分の水道料金?

こんなニュースが飛び込んできました。

「長野県富士見町が、住民の男性(82)に水道料金徴収の時効を大きく超える14年前からの滞納分と延滞金計約607万円の支払いを求めて提訴し、その主張を認める長野地裁諏訪支部(手塚隆成裁判官)の判決が確定したことが分かった。提訴時の水道料金の時効は2年だったが、時効の成立には債務者側がそれを主張する必要があった。行政絡みの訴訟に詳しい弁護士は「住民に有利になることは行政側が教えるべきだ。地方自治体は一般企業とは違う」と、町の対応を疑問視している。」(朝日新聞デジタル2020.6.1)
www.asahi.com


1 消滅時効(しょうめつじこう)って
民法には,消滅時効といって,債権者(富士見町)が債務者(住民)に対して権利行使をしないという状態が続いた場合には,その権利を消滅させる制度があります。
”借りたものは何年経ってでも返さないと”と思われるかもしれませんが,一定の状態が永続していて,誰もこれを争わないねというとき,社会は「誰も争っていない」という状態を前提に動いてしまうので,権利を消滅させてしまおうという仕組みです。

権利行使をしないという状態がどれだけ続けば良いのか?という点については,今年4月から施行された民法の改正前後で大きく変わっています。

改正前の民法では,「債権は,十年間行使しないときは,消滅する。」とされていました。
このルールには,多くの例外があり,身近な例では,①商売で生じた債権は5年間,②労働者の賃金は2年間,③医師の診療報酬や薬剤師の調剤薬代は3年間,④電気料金は2年間で,消滅時効が完成するとされていました。


2 水道料金は何年?(before)
水道料金はというと,実は,少し細かく分かれています。
水道(上水道)は,市町村が水道供給事業者となって,住民との間で,水道供給契約を結ぶことになります。
私「我が家に水道を給水して下さい」
市町村「分かりました。●●円で給水しましょう」
といった具合で,お互いに約束をしているということになります。
この場合,電気料金と同じように,2年間消滅時効が完成することになります。

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新型コロナウィルス感染症 関連情報とリンク集

世界的流行となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について,国,神奈川県,横浜市川崎市の対応等をリンク集としてまとめました。

1 個人・世帯への支援策

①特別定額給付金
一律一人あたり10万円を給付するもの
横浜市
特別定額給付金について 横浜市
5月29日から申請書を順次発送予定。

川崎市
川崎市:特別定額給付金
5月下旬から申請書を順次発送予定。


②住居確保給付金
離職等で住居を失うおそれがあるか,失った方を対象に家賃を補償するもの
横浜市
住居確保給付金 横浜市

川崎市
川崎市:住居確保給付金事業


③子育て世代への臨時特別給付金
児童手当を受給している世帯を対象としており,公務員以外の方は特別何か申請をする必要はないとのことです。
横浜市
令和2年度子育て世帯への臨時特別給付金について 横浜市

川崎市
川崎市:子育て世帯への臨時特別給付金について

④市区民税・固定資産税・国民健康保険料・国民年金保険料の支払猶予
横浜市
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/torikumi/sonota/kurashi_keizai.files/0011_20200527.pdf

川崎市
川崎市:新型コロナウイルス感染症に関連した支払い猶予や減免等について(住民の方向け)

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利得消滅?

以下のようなニュースを見聞きしました。


「市が男性に住民税約“1500万円多く”還付するミス 男性は返還に応じず訴訟も」
2018年,大阪府摂津市が,市内に住む男性に対して,平成30年度の住民税に関して約166万円を還付する予定だったところ,誤って1668万円が還付してしまい,2019年になってから,そのことが発覚したそうです。
摂津市は,男性に対して,差額の約1500万円の返還を求めていますが,男性は「生活などですでに使い切った」として応じていないと報道されています。

Yahoo!ニュースのコメント欄を読むと,
・男性には明らかに故意がある。裁判で,市と過失相殺を決めるべき。
・振り込まれたら使うに決まってる。
・時間経ってから返済しろというのは無理でしょう。
といったコメントがありました。

市,振り込まれた預金口座を開設している銀行,男性とがどのような関係になるのか,民法の教科書設例としてもよくある話でもあるので,ブログの題材にしてみようと思います。テスト投稿を兼ねて。


1 誤って多く振り込まれた1500万円は誰のもの?
この問題は,平成8年に最高裁判例が出ており,市と男性との間で,振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず,市と銀行との間で1668万円分の預金契約が成立する(=誤って多く振り込まれた分も,男性のもの)ということになります。
全ての送金手続について,金額間違えてない?振込先は合ってる?を銀行にチェックしてもらうとなると,大変な事務作業になってしまうからねということです。
ですので,誤って多く振り込まれた1500万円は,男性のものということになります。
※「組戻し」がありますが,割愛します。

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