ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

14年間分の水道料金?

こんなニュースが飛び込んできました。

「長野県富士見町が、住民の男性(82)に水道料金徴収の時効を大きく超える14年前からの滞納分と延滞金計約607万円の支払いを求めて提訴し、その主張を認める長野地裁諏訪支部(手塚隆成裁判官)の判決が確定したことが分かった。提訴時の水道料金の時効は2年だったが、時効の成立には債務者側がそれを主張する必要があった。行政絡みの訴訟に詳しい弁護士は「住民に有利になることは行政側が教えるべきだ。地方自治体は一般企業とは違う」と、町の対応を疑問視している。」(朝日新聞デジタル2020.6.1)
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1 消滅時効(しょうめつじこう)って
民法には,消滅時効といって,債権者(富士見町)が債務者(住民)に対して権利行使をしないという状態が続いた場合には,その権利を消滅させる制度があります。
”借りたものは何年経ってでも返さないと”と思われるかもしれませんが,一定の状態が永続していて,誰もこれを争わないねというとき,社会は「誰も争っていない」という状態を前提に動いてしまうので,権利を消滅させてしまおうという仕組みです。

権利行使をしないという状態がどれだけ続けば良いのか?という点については,今年4月から施行された民法の改正前後で大きく変わっています。

改正前の民法では,「債権は,十年間行使しないときは,消滅する。」とされていました。
このルールには,多くの例外があり,身近な例では,①商売で生じた債権は5年間,②労働者の賃金は2年間,③医師の診療報酬や薬剤師の調剤薬代は3年間,④電気料金は2年間で,消滅時効が完成するとされていました。


2 水道料金は何年?(before)
水道料金はというと,実は,少し細かく分かれています。
水道(上水道)は,市町村が水道供給事業者となって,住民との間で,水道供給契約を結ぶことになります。
私「我が家に水道を給水して下さい」
市町村「分かりました。●●円で給水しましょう」
といった具合で,お互いに約束をしているということになります。
この場合,電気料金と同じように,2年間消滅時効が完成することになります。


ところが,下水道は,下水道法で排水設備の設置が”強制”されており,地方公共団体(公共下水道管理者)には,下水道の使用者から使用料を”徴収する”権限が与えられています。
下水道の使用者は,契約を締結していないのに使用料を支払わなければならず,下水道使用料は税金と同じように徴収されるものとなっています。
地方自治法では,”普通地方公共団体の権利は,他の法律に定めがある場合を除いて,行使できる時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する”とされており,5年間消滅時効が完成することになります。

下水道は,雨水・汚水を適切に処理するという公衆衛生の維持・改善を目的としている分,水道(上水道)と同じように扱えないよね,ということで,普段の生活では意識する場面はありませんが,水道(上水道)は2年間,下水道は5年間で消滅時効が完成することになっていました。


3 水道料金は何年?(after)
改正後の民法では,この場合には何年,この場合には何年といった細かいルール分けを減らして,スッキリ・ハッキリさせましょうということで,
①権利者(富士見町)が権利を行使できることを”知った時”から5年間
又は
②(富士見町が)権利を行使できる時から10年間
で,消滅時効が完成するということになりました。

自治体の方で水道料金が未払いであることに気付かないというのは想像しにくいので,今回の場合だと,水道(上水道)は2年間→5年間に変更され,下水道は変わらず5年間のままということになります。


報道によると「男性の方は「時効なんて全く知らなかった」と説明する。控訴をしなかったため、判決が確定。」とのことで,弁護士に相談をしていれば払わずに済んだ12年分の水道料金を払わないといけない状況になっているようです。
裁判所から何か書類が届いたら,すぐに弁護士に相談を。


弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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