ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

2年ぶりの夏

8月7日(土)~9日(月)までの3日間,第26回全国中学・高校ディベート選手権(ディベート甲子園)が開催されます(文部科学省読売新聞社後援)。

nade.jp


昨年はコロナ禍で開催が出来ませんでしたが,今年はオンライン開催ということで,2年ぶりに開催されることとなりました。
コロナ前は,見学をしようと思うと会場まで直接足を運ぶ必要がありましたが,オンライン開催ですのでYouTubeLiveで限定公開されるとのことです。


中学生・高校生がそれぞれ約6か月かけて調査・準備してきた議論で,日本一を目指します。

今年の中学生の論題(テーマ)は,「日本は中学校高等学校の部活動制度を廃止すべきである。是か非か」

高校生の論題は,「日本は積極的安楽死を法的に認めるべきである。是か非か」です。


中学生は教職員の負担や部活動の意義について,高校生は終末期医療の現況と望ましい施策について,北は北海道,南は沖縄まで,中学生・高校生が議論をします。


関東甲信越地区の予選会も終了しており,

中学校は,
渋谷教育学園幕張中学校
広尾学園中学校
開成中学校
西武台新座中学校
・東京都立富士高等学校附属中学校
開智中学校
が出場します(こう見ると,やはり進学校が多いですね)。


高校は,
開成高等学校
創価高等学校
渋谷教育学園幕張高等学校
慶應義塾高等学校
広尾学園高等学校
開智高等学校
桜蔭高等学校
鎌倉学園高等学校
が出場します(神奈川県勢からは,慶應,鎌学が出場します)。


見学の申込み(もちろん無料)はこちら ↓ から。
nade.jp

雇用調整助成金と整理解雇

コロナ禍での従業員の雇用維持を図るために事業主に対して休業手当などの一部を助成する,雇用調整助成金の支給決定額が4兆円を突破したようです。
www.asahi.com


今日は,コロナ禍での整理解雇について少し裁判例を紹介しようと思います。


仙台市内全域を営業エリアとするタクシー会社の事案
裁判所は,
・乗務員の休業と雇用調整助成金,臨時休車措置の活用等により,収支は大幅な改善の余地があったことから,事業継続のために直ちに整理解雇を行わなければならないほどの緊急かつ高度の人員削減の必要性があったとはいえない。
雇用調整助成金の利用を検討する旨の説明を従業員にしていたことに照らすと,会社は,解雇に先立って,雇用調整助成金の利用することが強く要請されていたので,解雇回避措置の相当性は相当に低い。
等と指摘して,従業員を休業させて雇用調整助成金を受給する等の解雇回避措置を取らなかったことが,解雇が無効となる大きな理由の一つであるとしました。


②九州の貸切観光バス会社の事案
裁判所は,
新型コロナウイルス感染拡大によって,令和2年2月中旬以降,貸切バスの運行事業が全くできなくなり,3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥っており,3月当時,雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあった。
・しかし,解雇の手続が不相当であり,また人選の方法が不合理である。
として,解雇を無効としました。


いずれもコロナ禍での解雇が問題となったケースですが,整理解雇の当否を検討するにあたって裁判所は,雇用調整助成金を活用したか否か(活用することを検討することをしたか否かも含めて)についても着目しています。

コロナ渦にあっても,経営が苦しいという理由だけで整理解雇が直ちに認められるわけではなく,【人員削減の必要性】【解雇回避の努力を尽くしたか】【対象者選定が合理的か】【手続が妥当か】について検討が必要ですね。

現在はまだ序章に過ぎず,ワクチン接種が進み雇用調整助成金の特例措置の延長が止まってから,整理解雇の問題が大きくなるのではないかと推測しています。


弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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www.ooishimakoto-lawyer.com

貸与金の返済

今夏からスラックスの下にユニクロのエアリズムステテコを履いていますが,なかなかに快適です。


さて,司法修習生の貸与金の返済が始まりました。


司法修習生への貸与金返還時期知らせる書類を誤送付 最高裁 - 産経ニュース
(以下は引用)
最高裁は12日、希望する司法修習生に月約23万円を原則無利子で貸与する「修習資金」を借りていた65~68期の元修習生5999人に対し、年に一度の返還時期が来たことを通知する書類を発送した際、うち862人分を現在の住所でなく、過去の住所に誤って発送していたと発表した。届け出のあった住所変更の情報を国の会計システムに反映させる際に、漏れがあったのが原因という。
書類は今月7日に発送。元修習生の名前のほか、借りていた金額や滞納金などの情報が記載されている。最高裁は対象者に通知書類を再発送するとともに、ホームページ上で誤発送した書類回収に協力を呼び掛けており、「関係者に深くおわび申し上げる。再発防止に努めたい」などとコメントしている。」


記事には「希望する司法修習生」とありますが,司法修習生には,修習に専念する義務が課せられ,副業・兼業は不可でした。そのため,両親や家族の経済力のある人を除いては,貸与金で生活をするしかないというのが現実でしたので,記事の表現は調査不足あるいは実態を適切に表現していないかと思います。


奇妙な状況だと思った方はまさにその通り。

田舎町の出身ですが,当時,町役場から,国保か何かの関係で収入を申告せよとの手紙が届きました。
電話で「最高裁から借金をして生活をしているが,この借金の取り扱い如何」と問い合わせたところ,町役場の担当者の方には「最高裁から借金・・・?(この人は何を言っているのだ?)」と対応されたことを思い出しました。
同じ公務員からみても珍妙な話に聞こえたようです。

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送りつけ商法

今日から改正された特定商取引法が施行されたため,いわゆる「送りつけ商法」のルールが変わりました。


古くは海産物や健康食品など,昨年はマスクや消毒液など,注文していない商品を一方的に,文字通りに「送りつけて」,後日買ったものとみなすと言って代金を請求するという手口が横行していました。
特に,コロナ禍で平日・週末を問わずに在宅する人が増えた昨年は,送りつけ商法が急増していました。


これまでは,送りつけられた商品は,14日間保管しなければならないとされていましたが,今日から,送りつけられた商品は直ちに処分して良いというルールに変わりました(もちろん,金銭を請求されても支払う必要はありません)。


改正前の特定商取引法59条では,
「販売業者は、売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者及び売買契約を締結した場合におけるその購入者(以下この項において「申込者等」という。)以外の者に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合又は申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。」
としていましたが,


今日からは,
「販売業者は、売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者及び売買契約を締結した場合におけるその購入者(以下この項において「申込者等」という。)以外の者に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合又は申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合には、その送付した商品の返還を請求することができない。」
として,①売買契約がないのに商品を送りつけたり,②売買契約の内容とは異なる商品を送りつけたりしても,送りつけた商品の返還を求めることができないとされました。

商品を処分されてしまいますので,このような手口を取っても全く意味がないということになります。
これを機に,送りつけ商法が無くなると良いですね。


もし,間違って代金を支払ってしまった場合には,消費者ホットライン(電話番号:188)に相談をしましょう。


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特性を考える。

自宅の本棚を整理していたら懐かしい本が出てきました。


www.amazon.co.jp


大学生の頃に,ゼミの先輩におすすめをされて手に取った本でした。
就職活動を念頭に置いて勧められましたが,当時は,ロースクール進学のことだけを考えていたので流し読みをした程度でした(もったいない)。

最近,他事務所の弁護士さんと一緒に仕事をする機会が増え,それに伴って,自分の特性って何だろうなと考える機会も増えてきたので,少し読み返してみようと思いました。

この書籍は,「才能」と表現してしまうと仰々しいですが,「自身の特性を理解してそれを仕事に活かそう」をテーマにした本で,学習欲,活発性,共感性,競争性,原点思考,最上思考,未来志向etcの34の強みのうち,傾向として強い5つを,大量のアンケートに回答すると分析してくれるというものです。


私の傾向として強い5つは,以下のとおりでした。


①調和性
あなたは同意点を求めます。あなたは、衝突や摩擦から得るものはないという考えを持っているため、そのような争いを最小限にしようとします。周囲の人々が異なる意見を持っていることが分かると、あなたはその中の共通する部分を見出そうとします。あなたは彼らを対立から遠ざけて調和に向かわせようとします。
他の人が自分の目標や、主張や、強く抱いている意見を声高に話している時、あなたは沈黙を守ります。他の人がある方向に動き出すと、あなたは調和という名のもとに(彼らの基本的価値観があなたの価値観と衝突しない限り)、喜んで彼らに合わせてあなた自身の目標を修正するでしょう。


②学習欲
あなたはいつも学ぶ「プロセス」に心を惹かれます。内容や結果よりもプロセスこそが、あなたにとっては刺激的なのです。あなたは何も知らない状態から能力を備えた状態に、着実で計画的なプロセスを経て移行することで活気づけられます。最初にいくつかの事実に接することでぞくぞくし、早い段階で学んだことを復諦し練習する努力をし、スキルを習得するにつれ自信が強まるーーこれがあなたの心を惹きつける学習プロセスです。
あなたの意欲の高まりは、あなたに社会人学習ーー外国語、ヨガ、大学院などーーへの参加を促すようになります。それは、短期プロジェクトへの取組みを依頼されて、短期間で沢山の新しいことを学ぶことが求められ、そしてすぐにまた次の新しいプロジェクトへに取組んでいく必要のあるような、活気に溢れた職場環境の中で力を発揮します。

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無報酬のイソ弁

先日,こんなニュースがありました。


以下の記事より引用。www.kanaloco.jp

川崎市内で法律事務所を経営していた男性弁護士から長期にわたりパワハラを受けたとして、所属していた男性弁護士(35)が慰謝料などを求めた訴訟の判決で、横浜地裁川崎支部(飯塚宏裁判長)は27日、経営者によるパワハラを認め、慰謝料など計520万円の支払いを命じた。
被害者は司法修習を終え、2011年12月に同事務所に入所。16年3月に退職するまで、3年近くにわたりパワハラを受けた。
判決によると、経営者は14年1月ごろ、被害者の胸ぐらをつかみ、「うそつき野郎が」「おめえふざけんじゃねぇぞ」と大声を出してロッカーにたたきつけた。また、指示棒やスリッパでたたく、メールの宛先表示を「クズ」と設定するといった行為を繰り返した。
飯塚裁判長はこれらの行為を事実と認め、「優越的な立場を利用し、適正な指導の範囲を明らかに逸脱して行われたもので、違法なハラスメント行為というほかない」と指摘した。
事務所の依頼で被害者が担当した事件については、業務委託報酬の支払いも命じた。」(引用終わり)


被害者は就職先の事務所で2年目の途中から給与を支払ってもらえなかったとして,給与の支払いも請求していましたが,判決は独立した個人事業主であることを理由に,”給与としての”支払いは認めなかった一方で,被害者が担当した事件については”業務委託報酬”を支払うことも命じました。
給与なのか,業務委託料なのか,その呼び方は別として,無給で働かせることは良くないよねという考慮がされているのだと思いました。


今回は,士業に対する対価をテーマに判決をいくつか紹介しようと思います。


1 【税理士の場合】
東京地裁 平成29年(ワ)第15804号 令和2年3月10日判決
税理士である原告が,相続税の申告業務等を依頼され,これを行ったにもかかわらず,依頼者である被告らは,委任の事実自体も否定して一切の金員の支払いをしなかったため,委任契約に基づく報酬請求として517万1442円の請求をした事案。

裁判所は,相続税の申告書に被告らの押印がされていること,税理士が納付額を預かって納付手続を行っていること等から,委任契約が成立していることを認めました。
また,原告は税理士であって,委任事務を処理して報酬を得ることを業とする者であること等から,税理士の旧報酬規定に基づいて報酬額を算定することが相当だとして,一部認容の判決を下しました。


2 【弁護士の場合】
東京地裁 平成28年(ワ)第17988号 平成30年4月10日判決
東京弁護士会に所属する弁護士である原告が,医療法人である被告との間で,民事再生手続開始の申立てを含む委任契約を締結し,委任契約に沿った事務を行ったにもかかわらず,被告がその報酬を支払わないため,委任契約に基づく報酬請求として2429万円の請求をした事案。

被告からは,委任契約が公序良俗に反するので無効だ等の反論がされましたが,裁判所は,旧報酬規程では民事再生事件の報酬額については,その経済的利益の額を基準として,経済的利益に応じて決まるとされており,委任契約書の記載がいずれも一応,旧報酬規程の文言と矛盾したり,大きく乖離するものではないこと等から,請求額の約80%を認めるとの判決を下しました。


3 【公認会計士の場合】
東京地裁 平成27年(ワ)第4977号 平成28年3月24日判決
公認会計士である原告が,被告会社が出資した映画を製作した会社に対する経費の支出及び収入の管理に関する財務調査を依頼され,当該業務を実施したので,依頼者である被告会社に対して,業務委託契約における報酬特約に基づいて,業務委託料308万円の支払いを求める等した事案。

被告会社は原告への調査委託の事実を否定しましたが,裁判所は,有償の業務委託契約の成立と,業務に費やした時間(6月が114時間,7月が40時間)を契約内容に照らして,請求額の満額を認めるとの判決を下しました。


デザイナー・プログラマー・ライターなどのフリーランスでも,報酬の切り下げが定着化しています。
「他人に仕事を依頼する場合には,相応の対価を払う(対価が払えないのであれば自分でする)」が当たり前の社会になると良いですね。



弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
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横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階
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給与ファクタリング

まとまった時間が必要な仕事は,平日夜か,平日夜でも時間が足りない場合にはGWのような大型連休を使うことになりますが,今年も漏れなく,大規模な案件の準備時間となっています。


休憩中に,最近の判例時報を読んでいたところ,最近話題の給与ファクタリングについての裁判例が掲載されていました。



「お金の貸し借り」を「給与という権利の売買」にしてしまって,さも借金ではないかのように思わせるという手法が広まっています。



「一般に「ファクタリング」とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。
また、最近では、このスキームを個人に当てはめ、個人が勤務先に対して有する給与(賃金債権)を、給与の支払日前に一定の手数料を徴収して買い取り、給与が支払われた後に、個人を通じて資金の回収を行う「給与ファクタリング」という手法も現れています。
下記のとおり、「給与ファクタリング」を業として行うことは、貸金業に該当します(貸金業を営む者は、財務局長又は都道府県知事の登録を受ける必要があります。登録を受けずに貸金業を営む者はヤミ金融業者です。)。
また、「事業者向けファクタリング」についても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは貸金業に該当するおそれがあります。
新型コロナウイルス感染症に便乗して、ヤミ金融業者による違法な貸付け等が行われる懸念もありますので、ヤミ金融業者を利用することのないよう十分注意してください。」
金融庁のホームページより引用 ファクタリングに関する注意喚起:金融庁 )
とあります。



判例時報に掲載されていたのは,「給与という権利を買い取った業者」から「給与という権利を譲渡した労働者」に対して,労働者が受け取った給与を支払え,という裁判を起こしたというものでした。


「売買」という体裁を取れば,貸金業法出資法の規制をかいくぐることが出来てしまいますので,”このスキームって本当に「売買」と言い切って良いの?”がポイントでした。

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