ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

無報酬のイソ弁

先日,こんなニュースがありました。


以下の記事より引用。www.kanaloco.jp

川崎市内で法律事務所を経営していた男性弁護士から長期にわたりパワハラを受けたとして、所属していた男性弁護士(35)が慰謝料などを求めた訴訟の判決で、横浜地裁川崎支部(飯塚宏裁判長)は27日、経営者によるパワハラを認め、慰謝料など計520万円の支払いを命じた。
被害者は司法修習を終え、2011年12月に同事務所に入所。16年3月に退職するまで、3年近くにわたりパワハラを受けた。
判決によると、経営者は14年1月ごろ、被害者の胸ぐらをつかみ、「うそつき野郎が」「おめえふざけんじゃねぇぞ」と大声を出してロッカーにたたきつけた。また、指示棒やスリッパでたたく、メールの宛先表示を「クズ」と設定するといった行為を繰り返した。
飯塚裁判長はこれらの行為を事実と認め、「優越的な立場を利用し、適正な指導の範囲を明らかに逸脱して行われたもので、違法なハラスメント行為というほかない」と指摘した。
事務所の依頼で被害者が担当した事件については、業務委託報酬の支払いも命じた。」(引用終わり)


被害者は就職先の事務所で2年目の途中から給与を支払ってもらえなかったとして,給与の支払いも請求していましたが,判決は独立した個人事業主であることを理由に,”給与としての”支払いは認めなかった一方で,被害者が担当した事件については”業務委託報酬”を支払うことも命じました。
給与なのか,業務委託料なのか,その呼び方は別として,無給で働かせることは良くないよねという考慮がされているのだと思いました。


今回は,士業に対する対価をテーマに判決をいくつか紹介しようと思います。


1 【税理士の場合】
東京地裁 平成29年(ワ)第15804号 令和2年3月10日判決
税理士である原告が,相続税の申告業務等を依頼され,これを行ったにもかかわらず,依頼者である被告らは,委任の事実自体も否定して一切の金員の支払いをしなかったため,委任契約に基づく報酬請求として517万1442円の請求をした事案。

裁判所は,相続税の申告書に被告らの押印がされていること,税理士が納付額を預かって納付手続を行っていること等から,委任契約が成立していることを認めました。
また,原告は税理士であって,委任事務を処理して報酬を得ることを業とする者であること等から,税理士の旧報酬規定に基づいて報酬額を算定することが相当だとして,一部認容の判決を下しました。


2 【弁護士の場合】
東京地裁 平成28年(ワ)第17988号 平成30年4月10日判決
東京弁護士会に所属する弁護士である原告が,医療法人である被告との間で,民事再生手続開始の申立てを含む委任契約を締結し,委任契約に沿った事務を行ったにもかかわらず,被告がその報酬を支払わないため,委任契約に基づく報酬請求として2429万円の請求をした事案。

被告からは,委任契約が公序良俗に反するので無効だ等の反論がされましたが,裁判所は,旧報酬規程では民事再生事件の報酬額については,その経済的利益の額を基準として,経済的利益に応じて決まるとされており,委任契約書の記載がいずれも一応,旧報酬規程の文言と矛盾したり,大きく乖離するものではないこと等から,請求額の約80%を認めるとの判決を下しました。


3 【公認会計士の場合】
東京地裁 平成27年(ワ)第4977号 平成28年3月24日判決
公認会計士である原告が,被告会社が出資した映画を製作した会社に対する経費の支出及び収入の管理に関する財務調査を依頼され,当該業務を実施したので,依頼者である被告会社に対して,業務委託契約における報酬特約に基づいて,業務委託料308万円の支払いを求める等した事案。

被告会社は原告への調査委託の事実を否定しましたが,裁判所は,有償の業務委託契約の成立と,業務に費やした時間(6月が114時間,7月が40時間)を契約内容に照らして,請求額の満額を認めるとの判決を下しました。


デザイナー・プログラマー・ライターなどのフリーランスでも,報酬の切り下げが定着化しています。
「他人に仕事を依頼する場合には,相応の対価を払う(対価が払えないのであれば自分でする)」が当たり前の社会になると良いですね。



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