ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

ベ●ッセの顧客情報流出と訴訟代理権

裁判所が公開している判決書を研鑽していたところ、ベ●ッセの顧客情報流出に関する事件の判決が掲載されていました。

平成27年頃に報道がされていた事件だと記憶しています。


興味深かったのは、被告らの反論の中に「訴訟代理権の欠缺」がありました。

「本案前の抗弁」と言って、請求の当否について審査する以前の問題として、訴えを却下すべきだとの反論です。

訴訟委任の意思を確認できない原告については、訴えを却下すべきだというものです。

具体的には、

①未成年者の法定代理人親権者が2名いる場合、原告ら訴訟代理人が訴訟追行について委任を受けるに当たっては、各法定代理人親権者から委任を受ける必要があり(民法818条3項)、訴訟代理人の権限は書面で証明しなければならない(民訴規則23条1項)。
本件の訴訟委任状に係る法定代理人両名の署名の筆跡及び押印の印影が同一であり、少なくとも両名のいずれか一方については、自ら署名押印した事実が認められない原告については、訴訟委任の意思が認められない。

②本件の訴訟委任状に係る署名の筆跡及び押印の印影が、他の訴訟委任状における署名の筆跡及び押印の印影と同一であり、少なくともいずれか一方については、自ら署名押印した事実が認められない原告には、訴訟委任の意思が認められない。

③捨印のない訴訟委任状に、被告名を追加しており、追記された被告らとの関係では訴訟委任の意思が認められない。

④捨印はあるものの「外」が加筆されていない訴訟委任状では、他の被告らとの関係では訴訟委任の意思が認められない。

※被告には、ベ●ッセだけでなく、顧客情報を管理するシステム開発・運用をしているグループ会社、完全親会社も含まれており、全部で3社になっています。

と反論しています。


裁判所は、①②については、
「民訴規則2条1項によれば、裁判所に提出すべき書面である訴訟委任状には「記名押印」が求められているにすぎず、自署は要件とされていないから、上記ア及びイについて問題となり得るのは押印の印影が同一であるという点にとどまる。訴訟委任状は訴訟代理権の存在を証する書面(民訴規則23条1項)として提出されるものであって、当該訴訟を委任する意思を明らかにするための書面であるから、訴訟委任状への押印を通じて原告ら各人の委任の意思が示されていれば足り、原告ら各人が異なる印影を用いることは必須ではない。そして、原告ら訴訟代理人弁護士が、原告らから訴訟委任状を取り付ける際に、意思確認のために本人確認書類を徴求した旨主張していることを考慮すると、既に提出済みの訴訟委任状によって原告らの委任の意思が示されているということができ、署名の筆跡及び押印の印影が同一又は類似しているとの理由でその意思が否定されるものではない。」

③④については、
「本件訴訟において、原告らは、本件漏えい行為によって責任を負うべき主体を被告として訴訟を行うことを原告ら訴訟代理人に委任していることが認められるところ(弁論の全趣旨)、いずれが訴訟の被告となり得るのかについては、原告らが直接顧客情報を提供した被告ベ●ッセについては当初から被告となるべきことが確定していたといえるが、その余の被告らについては、法人相互の関係性を精査しなければ法的責任の所在が判然としないことから、専門知識を有する原告ら訴訟代理人にその適切な選別を含めて委ねていたものと解することができる。そうすると、訴訟委任状に形式的に「外」や捨印がなかったとしても、原告らは当初から本件漏えい行為によって責任を負うべき主体を被告とした訴訟を委任する意思を有していたのであるから、被告ベ●ッセ以外の被告らに対する訴訟を委任する意思を有していたものというべきであって、原告ら訴訟代理人らによる追記があったとしても原告らの当初の委任の範囲内の事項にすぎないというべきである。」

として、いずれの反論も退けています。

最終的な結論は報道のとおりですが、なるほど、こういう争い方も着眼点として忘れてはいけないなと考えさせられた事案でした。


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