ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

隣地問題

宅地建物調停

●対象
従来は、借地法・借家法にいう借地借家関係に関する紛争のみを対象とされていたが、現在では、使用貸借・地役権・占有権・相隣関係等、一般に宅地建物の利用関係の紛争も対象に含まれる。

●管轄
紛争の目的である物件所在地を管轄する簡裁であって、相手方の住所・居所等の管轄は排除される。

囲繞地通行権

●袋地所有者が囲繞地通行権を有する場合において、その通路の地下に水道管・ガス管の埋設をできるかという問題については、(改正前)民法210条を類推適用してこれを肯定する見解が多かった。

現行法では、213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等)が新設された。


囲繞地通行権の行使を妨害した者に対しては、不法行為に基づく損害賠償義務が生じる。
例えば東京地裁判決昭和52年5月10日判時852号26頁は、極端なケースであるものの、マンション建設に反対する住民の実力による工事阻止闘争が不法行為を構成するとして損害賠償の支払が命じられた事例

隣地使用権

●(改正前)民法209条1項本文「・・・隣地の使用を請求することができる」とあり、隣地使用の承諾を得ることができない場合は、承諾に代わる判決を求めなけれならないとする見解が多数。判決が確定した時点で、被告が承諾したとみなされる。
この隣地使用請求権の相手方は、現に隣地を利用している土地所有者、地上権者、借地人など。


●改正後は、「隣地を使用することができる」として、隣地所有者の使用の承諾は不要になった。
改正後209条3項に事前の通知の定めを新設し、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。


●例えば大阪高裁判決平成10年6月30日判タ999号255頁
「ところで、土地を住宅又は事務所等として用いるには、現在では、上下水道、ガス、電気、電話の利用は欠くことのできないものである。
そして、民法の相隣関係諸規定の精神、下水道法一一条、電気事業法一八条一項、ガス事業法一六条一項、水道法一五条一項、電気通信事業法七条、三四条等の関連法規を総合的に考慮すれば、他人の土地を経由しなければこれらの管、線を自己所有地に引き込むことができないときは、他人の土地のうち最も損害の少ない場所をこれらの管、線の引き込みに必要な限度で使用することができ、他方その土地の所有者に償金を払う義務があると解するべきである。
本件においては前記二において認めた土地については控訴人に通行権を認めるべきである以上、この土地が右管、線の引入れをさせるにつき、被控訴人にとっても最も損害の少ない土地と解される。」

●反対に、最小判平成5年9月24日民集47巻7号5035頁は、
「本件土地が袋地であって、本件通路部分が従前から通路として使用されてきた経緯、本件私道は建築基準法上の指定を受けた道路であって、所有者のみならず私道南側の土地所有者の通行や下水管敷設のためにも供されていること及び本件土地からの下水管は、本件通路部分と本件私道を通って公共下水道管に接続されるのが最も適切と認められる等の前記事実関係によれば、隣接土地相互間の利用の調整を目的とする民法二〇九条、二一一条、二二〇条及び他人の土地に排水設備をすることができる旨及びその設置のために他人の土地名使用することができる旨を定める下水道法一一条の趣旨に照らし、控訴人は被控訴人に対して本件下水管設置とそのための工事を受忍するよう求める権利を有しているということができる。」とした原判決*1を破棄し、

「しかし、本件建物は、被上告人が建築確認を受けることなく、しかも特定行政庁の工事の施行の停止命令を無視して建築した建築基準法に違反する建物であるというのであるから、本件建物が除却命令の対象となることは明らかである。このような場合には、本件建物につき、被上告人において右の違法状態を解消させ、確定的に本件建物が除却命令の対象とならなくなったなど、本件建物が今後も存続し得る事情を明らかにしない限り、被上告人が上告人に対し、下水道法一一条一項、三項の規定に基づき本件通路部分に下水管を敷設することについて受忍を求めることは、権利の濫用に当たるものというべきである。ところが、被上告人は、本件訴訟提起の前後を通じ、右の事情を何ら明らかにしていない。」「そうとすると、本件建物が今後も存続することができることが明らかでない段階における本件請求は、権利の濫用として許されないというべきである。」
として、建物が建築基準法に違反して建築されたものであるため除却命令の対象となることが明らかであるときは、建物の所有者において違法状態を解消させ、確定的に建物が除却命令の対象とならなくなったなど、建物が今後も存続し得る事情を明らかにしない限り、建物の所有者が隣接地の所有者に対し下水管の敷設工事の承諾及び工事の妨害禁止を求めることは、権利の濫用に当たるとした判例がある。


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*1:阪高判平成3年1月30日判時1399号57頁

おひとりさまの終活

生前対策や終活に関連して、次のような報道がありました。

『相続人なき遺産、647億円が国庫入り 21年度過去最高』
「遺産の相続人がいないなどの理由で国庫に入る財産額が、2021年度は647億円と過去最高だったことがわかった。身寄りのない「おひとり様」の増加や不動産価格の上昇も背景に、行き場のない財産は10年前の倍近くに増えた。専門家は早めに遺言書をつくるよう勧めている。最高裁判所によると、相続人不存在による相続財産の収入は、21年度は前年度比7・8%増の647億459万円だった。01年度は約107億円、11年度は約332億円で、この20年で6倍に増えたことになる。相続人も遺言もない遺産は、利害関係者の申し立てにより、家庭裁判所に選任された「相続財産管理人」が整理する。未払いの税金や公共料金などを清算し、相続人が本当にいないかを確認。一緒に暮らしたり身の回りの世話をしたりした「特別縁故者」がいれば家裁の判断などにもとづいて財産を分与し、残りは国庫に入る。」
(1月23日 朝日新聞デジタル
https://news.yahoo.co.jp/articles/c34dec667e462058e7ef80bf9209181f4bd8f99dnews.yahoo.co.jp


2019年のニュースでは、「遺産の相続人が不在で国庫に納められた財産の総額が、2017年度は約525億円に上り、記録が残る5年前の1.4倍で初めて500億円を突破したことが、最高裁への取材で判明した。近年、単身の高齢者人口と生涯未婚率も上昇しており、識者は、少子高齢化が進んだことを背景に相続人不在が相次いでいると指摘している。」とありました。
(2019年1月8日 毎日新聞
mainichi.jp

2017年度と今回のニュースを比較しても、国庫に帰属する財産が増加していることが見て取れます。


同居する配偶者、パートナー、お子さんなどがいない場合はもちろん、血縁者がいても、高齢・遠方・交流がないなどの理由から頼ることができないというご相談が増えています。

死後のことだけでなく、生前対策という観点からみても、入院、手術、認知症の発症等のリスク(介護や金銭管理などの日常的なことができなくなる)もあります。
また、葬儀や遺産の処分のことを考えても、遺言書やエンディングノートの作成の重要性が年々増しているように感じます。


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【メモ】①相続分の譲渡の税務、②貸金庫の借主が死亡した場合の実務の取扱い

①相続分の譲渡の税務

「(1)他の共同相続人無償で譲渡したときは、譲渡人は未分割遺産についての持分的な権利を失い、何らの相続財産も取得しないことになるので、これに相続税が課税されることはない。譲受人には、固有の相続分に譲り受けた相続分を加えたものに応じた相続税が課される。

(2)他の共同相続人に相続分を有償で譲渡したときの相続分は対価相当額である。譲渡人は、持分的な権利を主張して代価を取得したわけであるから、取得した代価に対して相続税が課される。譲受人には、固有の相続分に譲り受けた相続分を加えたものから譲渡人に支払った金額を控除した価格に対し相続税が課される。前記の判例*1も、取得財産価格から負担金を控除することを認めている。

(3)三者に相続分を無償で譲渡したときは、他の共同相続人に相続分を譲渡する場合とは異なり、相続手続において持分的な権利を主張したうえ、これを第三者に譲渡したものと解することができる。また、民法上の理解でも、譲渡人が相続承継した財産を第三者が特定承継したと考えるほかないことから、譲渡人にも相続分に応じた相続税が課されることになる。譲受人に対しては、相続分に応じた財産の無償取得があったとして贈与税が課される。

(4)三者に相続分を有償で譲渡したときは、譲渡人には前記同様に相続分に応じた相続税が課され、かつ、ここで受領した対価は、資産の譲渡による対価として譲渡所得の発生原因になる。」

出典 東京弁護士会編「新訂第七版 法律家のための税法〔民法編〕」(第一法規 平成28年)356ページ

②貸金庫の借主が死亡した場合の実務の取扱い

「ア 賃借人としての地位は、相続人によって承継され、銀行は、被相続人の戸籍謄本により相続人を確認し、相続人全員の印鑑証明書を求め、相続人全員の立会いによって、貸金庫の開扉と格納品の搬出を認めることにしている。すなわち、金融機関は、貸金庫の開扉も処分行為と捉え、相続人全員の立会いを求めている。したがって、遺産分割によって、貸金庫の権利帰属が決定するより前に、共同相続人の一人から開扉の請求があっても、銀行はこれを拒否する取扱いとなっている。
イ 遺産分割調停では、相続人の一人が代表で貸金庫の開扉及び財産の保管をすることに他の相続人が同意すれば、中間合意調書を作成の上、任意に委任状を提出してもらい開披させることになる。
この協力が得られない時は、保全処分により財産の管理者を定めて(家事法200条)、貸金庫の開扉にあたらせるなどの手続を検討することになろう。

出典 片岡・管野「第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」(日本加除出版 第4版 2021年)60ページ



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*1:最判平5・5・28判時1460・60

賃貸と離婚に関する2つの最高裁判決

早いもので令和4年もあと数日となりました。

今月も実務上参考になる2つの最高裁判決がありました。


1、いわゆる「追い出し条項」の適否
賃貸物件の賃料を借主が3か月滞納するなどして、連絡も取れない場合には、「物件を明け渡したとみなす」という家賃保証会社の契約条項の是非が争われた訴訟の最高裁判決がありました。

www3.nhk.or.jp


最高裁判決のケースは、以下のような契約条項の内容となっていました。


●家賃保証会社は、賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができる。(条項1)


●家賃保証会社は、賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、家賃保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなす。(条項2)


条項1については、「賃貸人」が賃料不払いの際に催告を要せずに解除できる事例と、今回のように「家賃保証会社」が無催告で解除しようとする事例とは性質が異なることを指摘し、条項1の記載された契約書を用いてはならないとの判断をしました。


条項2についても、①賃貸人・賃借人間の賃貸借契約が終了していない場合、賃借人は、物件を使用収益する権限が消滅していないのに、賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社の一存で、物件を使用収益する権限を制限できること、②条項2が発動したあかつきには、賃借人は、本来、物件の明渡義務をまだ負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれることを指摘し、条項2の記載された契約書を用いてはならないとの判断をしました。


判決の結論云々よりも、現実への影響を考えると、保証人の立てられない人や高齢者などの審査が厳しくなり、保証会社を利用して家を借りることが困難な人が増えることにならないか心配です。
(だから今回の判決が論理的におかしい、という趣旨ではありません。)



2、離婚時の財産分与
離婚をするとき、子がいる場合には親権者・面会交流・養育費等について必要な事項は協議で定めるとされ、この協議が整わないときは家庭裁判所が相当な処分を命ずることができる等とされています。

また、離婚をした者の一方は、相手方に対して「財産分与」を請求することができます。
財産分与の協議が整わないか、協議をすることができないときは、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ、家庭裁判所は「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」とされています(民法768条3項)


最高裁判決のケースですが、財産分与を求める財産の中には、夫婦で結婚後に出資して設立した医療法人の持分が含まれていました。

原審(東京高裁)は、出資持分は当事者双方が婚姻中にその協力によって得た財産に当たるとしながらも、財産の横領等を理由に1億5767万円余りの損害賠償を求める訴訟が係属中であること等に照らせば、出資持分については、現時点では財産分与の割合を定め、その額を定めることを相当としない特段の事情があるから、財産分与についての裁判をすることは相当ではないとして、出資持分を除いたその余の財産についてのみ、財産分与についての裁判をしました。

これに対して、最高裁は、①民法768条3項、人事訴訟法32条1項の文言からすれば、夫婦共有財産の全部につき財産分与についての裁判がされることを予定しており、民法人事訴訟法その他の法令中には、財産の一部につき財産分与についての裁判をしないことを許容する規定は存在しないこと、②離婚に伴う財産分与は、できる限り速やかな解決が求められるものであるから、一部につき裁判所が財産分与についての裁判をしないことは、財産分与の制度や同項の趣旨にも沿わないことから、「離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において、裁判所が離婚請求を認容する判決をするに当たり、当事者が婚姻中にその双方の協力によって得たものとして分与を求める財産の一部につき、財産分与についての裁判をしないことは許されないものと解するのが相当である。」と判断しました。


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【メモ】相続債務の弁済と相続放棄の関係

・相続人の固有財産となる死亡保険金を、保険会社に請求し、受領する行為は、相続財産の処分にあたらない
・相続人の固有財産である死亡保険金をもって行った被相続人の相続債務の一部弁済行為は、相続財産の処分にあたらない
被相続人の猟銃事故共済について自損事故共済金の支払を受けられるか否かの回答を得る目的で、相続人が試みた共済金請求は、民法915条2項の財産の調査に過ぎず、相続財産の処分にあたらない
福岡高裁宮崎支部 平成10年12月22日決定 家裁月報51巻5号49頁)


法定単純承認事由である「処分」とは、一般に相続財産の現状やその法的性質を変更する行為

例えば、
被相続人の衣類を形見分けとして近親者に贈与した行為でも、その衣類が経済的価値を有している場合には「処分」にあたる。他方で、交換価値を失う程度に着古した衣類は、「処分」にあたらない
被相続人が代物弁済の予約をしていたのを実行すること、債権を取り立てて受領することは「処分」にあたる

財産開示手続

最高裁のホームページに興味深い決定が掲載されていました。

1 債務者の財産状況の調査方法

例えば、勝訴判決を得たものの被告(債務者)が判決に書かれた金員を支払ってくれない、養育費を支払う旨の調停が成立したのにこれを支払ってくれないといった場合に、債権者は、①財産開示手続や、②第三者からの情報取得手続を利用することで、裁判所を通じて、債務者の財産に関する情報を入手することができます。

財産開示手続という制度自体は平成15年から存在しましたが、実効性に疑義があったことから、令和元年に罰則を強化するなどの改正がされました。

2 財産開示手続の要件

民事執行法197条は財産開示手続の要件を定めたもので、執行力のある債務名義の正本を有する債権者の場合の要件は、以下のように整理されます。

①執行開始の要件を備えていること
※債務名義の正本又は謄本が送達されていることなど

強制執行を開始することができない場合でないこと
※債務者の破産手続開始決定、民事再生手続開始決定などがされていないこと

③ーA 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続で完全な弁済を得ることができなかったとき
※配当表、弁済金交付計算書の写しなどを提出

③ーB 知れている財産に対する強制執行を実施しても完全な弁済を得られないことの疎明があったとき
※不動産の調査をしたが所有していない、預貯金口座の残額では完全な弁済が得られない、勤務先を調査したが不明など

④債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと

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事実認定の勉強

現在、判例時報では「講話 民事裁判実務の要諦 ー裁判官と代理人弁護士の方々へ」が連載されています。

個人的には以下の解説が勉強になりました(要約)。


【損害額の証明度の軽減】
最三判平成20.6.10裁判集民228.181は、原告の採石権に対する侵害行為に基づく損害額の立証が極めて困難な場合に、損害の発生を認定することができる以上は、法248条を適用せずに請求を棄却した原判決を法令違反があるとして破棄。
法248条の解釈として、法文の言う「損害の性質上」とは、当該「損害そのもの」が持つ、「固有の性質上」や「客観的な性質上」、「法的な性質上」を意味するものではなく、「(損害が生じたことが認められる)当該訴訟(事案)における損害の性質上」、換言すれば「当該訴訟の個性や事案の特質・特殊性により損害額を立証することが極めて困難な場合であること」を意味する。
「主観的に」立証が極めて困難であると思料して必要十分な主張立証活動をしない場合を除外し、「客観的」な立証困難性が認められる場合を適用対象とする。
(2518号136頁)


【現在の詳細な供述による過去の動かしがたい事実の軽視の危険】
長期にわたり継続する客観的(動かし難い)事実・証拠がある場合には、規範的観点を考慮し、このこと自体に重きを置いて証拠原因を形成するということは裁判実務上重要である。
(2521号128頁)


【口頭による合意認定の誤り】
客観的資料に基づく、一見すると口頭の合意があったかに見えても、果たして「法律効果の発生する確定的な意思表示の合致があった」という認定判断ができるか否かは別問題である。
相手方に対する事実上の信頼を、法的拘束力のあるものに高め、法的保護を受けるためには、規範的・法的観点に耐えられる段階を経て、互いに法律上の権利義務の関係の成立を認識・認容する必要がある。
(2521号128頁~129頁)


【専門的意見の慎重な評価の必要】
・内科医作成の成年後見制度用診断書に長谷川式検査の結果を始め、MRI検査結果等の客観的な精神医学的根拠の記載がない例
・高齢者がパーキンソン病のオンオフ現象の影響下にあり、オフ現象にあることを知りつつ診断書記載の長谷川式検査を実施したことが、当該訴訟で取り寄せた診療録により判明する例
・意に反して、非監護者に初診の医院に連れられて長谷川式検査を受診させられており、検査に対して嫌悪感を持ち、消極的姿勢で検査に臨んでいることが検査結果に影響を及ぼした例
・診断書作成の医師に対する弁護士会照会の回答書記載の所見と、看護日誌の記載とが明らかに矛盾し、事実に反する記載が複数箇所認められる例
(2521号131頁~134頁)


【固い認定により事案の真相(事案の筋)を見誤る危険】
高度の蓋然性の立証を固定的に高度のものと把握し、いわゆる「固く認定」すると、当該事案全体の真相が明らかにならないことから、実体法規に従って勝つべき者が勝つという解決とならないことがある。
当該要件事実の時点に絞った「微視的な観点」のみでなく、むしろ、時系列に全体として原因と結果を見るという「巨視的な視点」で事実認定をする必要性がある。
(2521号135頁~136頁)


【立証責任の再確認と検討の必要性】
介護等を受けていた被相続人からはもとより、他の相続人からも異議がなく容認されており、後に争われることを予想していなかった被告による長期間の管理行為による使途を証する領収書等の証拠方法を過去に遡って厳格に求めたり、被相続人に係る金銭出納帳の記帳をしていなかったことを後になって責めたりすることは、規範的観点からは相当とは思われない。
(2521号136頁)


実況見分調書の「作図手法を原因とする錯覚」は、注意を要する】
(2512号113頁)


【証拠説明書の記載の留意点】
・備考欄を設けない書式もある。備考欄があると立証趣旨欄がその分狭くなるためと思われる。そこで立証趣旨との項目を記載する欄に、「(備考)」とゴシック体で記載して太字で印刷し、個別番号の「立証趣旨」を記載する本文の末尾に備考事項がある場合に、これをゴシック体の太字で括弧書きする等の工夫が考えられる。
・「写し」の提出の場合、原本の存在の有無及び存在しない場合にはその理由について常に留意し、必要に応じて必ず確認する。例えば、弁済の有無が争点となる事例で金銭借用証書の原本の不存在は、弁済の事実の間接事実となる。
(2503号6頁~8頁)


勉強になる記載ばかりで、残りの連載も楽しみです。


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