ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

遺言有効確認請求

少しずつ加齢に伴って,体質の変化を感じる頃となりました。
先月後半から椅子に座るのが苦痛と感じるほどの腰痛に悩まされましたが,事務所の椅子を変えてみたり,朝晩にストレッチをするうちに,かなり改善されました。

さて,今月の判例タイムズにも,勉強になる判例・裁判例が掲載されていました。


一つ目は,遺言有効確認請求事件です。
仮称の人物の性別は不明ですが,仮定すると,以下のようなケースでした。

登場人物は,亡母,姉,弟。

弟が,母の死後,姉に対して「法定相続分のとおり遺産を分けよ」との訴訟を提起しました。
姉は,弟に対して「では,母の医療費を立て替えていたので,立替額を法定相続分で分けて支払え」と反訴を提起しました。
この裁判で,姉は「母は『財産全部を姉に相続させる』という遺言書を残していた」と反論をしていました。

この裁判は,弟が母の遺産について相続分を有することは争いがないとされ,遺言書の有効性については判断されず,弟の請求が一部認められていました。

その後,姉が弟に対して,「『財産全部を姉に相続させる』という遺言書が有効であることの確認を求める」との訴訟を提起しました。
この裁判で,弟からは「以前の裁判では,私が相続分を有することを前提に決着しており,遺言書が有効であると主張されるとは思わなかった。以前の裁判の反訴の内容とも矛盾するから,訴えを提起したことは信義則に反する」と反論をしていました。
よもやよもや,です。

この②の裁判について,大阪高等裁判所は弟の主張に軍配を上げていました。

この弟側からの反論の当否について,最高裁は,
・①の裁判では遺言書が有効であるか否か判断していない。
・①の裁判は遺産の一部を取り上げた問題であるが,②の裁判は遺産をめぐる法律関係全体に関わるものであって,訴訟によって実現される利益が異なる。
・姉は,①の裁判でも遺言書が有効であると主張しており,反訴については,遺言が無効であることを前提とする弟の訴えに対応してしたものに過ぎない。

として,弟の反論,遺言書が有効であると主張されるとは思わなかったとの信頼は,合理的なものではないと判断しました。

・また,①の裁判の反訴は,医療費を立て替えたという事実が認定できずに認められなかったのであって,②の姉の請求とは矛盾する利益は生じないことも指摘されました。


姉側からみれば,粛々と①の裁判に対応すれば良いという結論になります。
他方で,弟側からみると,なぜ,①の裁判で「遺言が無効であることの確認を求める」との訴訟を合わせて提起しなかったのだろうか,というのが引っかかるところです。


二つ目は,大学での整理解雇の事例です。
大学Yと,その大学で働いていた教員Xら(3名)との間の裁判です。

大学の教員として勤務していた教員Xら(3名)が,自身の所属していた学部が廃止されることとなりました。
大学側は「その学部が廃止されれば雇用は終了ですね」と説明していましたが,Xさんたちは「廃止される学部以外の他学部への配置転換をして欲しい」と希望していました。しかし,配置転換は実現されないまま,解雇されました。

そこで,元教員Xら3名が,大学Yに対して「解雇は無効である」との訴訟を提起しました。

東京地裁は,
・学部廃止に伴う解雇は,元教員Xさんら3名に帰責性のない経営上の理由であるから,解雇が無効か否かは,①人員削減の必要性,②解雇回避努力,③被解雇者選定の合理性,④解雇手続の相当性に加えて,再就職の便宜を図るための措置を取ったか等の事情も考慮して判断する。
・元教員Xさんらの所属学部や職種が,廃止される学部に限定されていたことは,この判断の基準を変える理由にはならない。
とした上で,

・大学の財務状況が相当に良好であり,学部廃止と同時期に,別の学部が新設され,元教員Xらの担当可能な授業科目が多数新設されたことから,人員削減の必要性は大きくない。
・新設学部への応募の機会を与えず,労働契約が続くように期待させる言動をしたことで,解雇回避の機会を失わせた。
・他学部の授業科目を担当させるなどの解雇回避努力を尽くしていない。

と判断し,解雇は無効であると結論しました。


元教員Xらの所属学部の廃止と同時期に,別の学部が新設されたという経緯をどう見るかがポイントという事例でした。


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