ハマ弁日誌

弁護士大石誠(神奈川県弁護士会所属)のブログ 最近は相続の記事が中心です

AI契約審査と弁護士法

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)には、

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

との規定があり、これに違反すると、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金の処せられます(弁護士法77条3号)。

なぜこのような規制があるかというと、「弁護士の資格のない者が,自らの利益のため,みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは,当事者その他の関係人らの利益を損ね,法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ,ひいては法律秩序を害することになる」等の説明がされています。



これまで弁護士法72条に関連したり、あるいは同条の適用が問題となったケースとしては、

・認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した裁判外の和解契約の効力が問題となった事例
法務大臣の許可を受けないで、消費者金融会社から不良債権を譲り受けてその管理回収業を営んだ事例
・ビルの所有者から委託を受けて、そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った事例
・支払に窮している会社経営者らに再建方法として会社分割を指南した行為の適法性が問題となった事例

などがありました。



ところで、日経の業界地図2022年版を読むと、2030年に生まれる新業界として「AIベンチャー」「AIアシスタント」が登場しており、人工知能(AI)の実用化が注目されています。
人工知能(AI)による画像認識、データ解析、マーケティング支援が進化しており、同時に「AI倫理」の整備が求められています。


今回、法務省から発表があったのは、【法務審査を希望する契約書を、AI技術を用いて、法的観点から有利か不利か等の審査結果を表示する】というサービスが、弁護士法72条に違反するか否か、でした。


法務省の発表は、

「ユーザーが、本件サービスを利用して法務審査を受ける契約書に係る契約は、その目的、本件サービスを利用する者(ユーザー)と相手方との関係、契約に至る経緯やその背景事情等の点において様々であり、こうした個別の具体的事情によっては、本件サービスが、弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関するものと評価される可能性がないとはいえない。
次に、本件サービスにおいて、前記①ないし⑤の各事項についての表示をするに当たっては、審査対象となる契約書に含まれる条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定することが大前提となっており、これは正に法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べるものに当たり得る。よって、本件サービスは弁護士法第72条本文に規定する「鑑定」に当たると評価され得るといえる。
なお、本件サービスを提供する照会者は、ユーザーが法務審査を受ける契約書に係る契約の当事者等ではないから、本件サービスによる法務審査が「他人の」法律事件に関するものに当たると評価され得る。」として、
「以上によれば、本件サービスは、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる。」との回答でした。
引用元【https://www.moj.go.jp/content/001374148.pdf


ちなみに、過去の発表を遡ってみてみると、弁護士の求人をする企業と求職弁護士とのマッチングサービス、離婚協議書案の自動作成サービスや、養育費収納代行サービスについての回答などもありました。


法律がリーガルテックの進歩の足枷となっているか、それとも適切な規制というべきか、賛否両論ありという発表でした。



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